国内外で未だに中止論が渦巻く一方、五輪の準備は着々と進行中。実施中の水泳飛び込み、バレーボールに加えて、今月はマラソン、陸上、自転車競技でも、海外選手を交えた五輪テスト大会が予定されています。読売新聞の朝刊によると、大会現場は厳戒態勢そのものです。海外選手は、出国時と日本入国時にウイルス検査を受け、空港から専用バスに乗車。ホテルに着くと、臨時の専用入り口から入館し、貸し切りフロアで生活。当然、競技会場は無観客で、取材もガラス越しでの対応になりました。入念な対策ゆえ、クラスターは発生しにくいでしょう。
しかし、本番は別です。約200の国・地域から1万人超の選手が来日します。国際オリンピック委員会(IOC)は、海外選手の約6割が、新型コロナのワクチン接種を受けてくると試算していますが、裏を返せば、約4割は接種しないまま入国する訳です。滞在中に感染が判明する選手が数十人くらい現れることは、現実的に避けがたいと思います。特に心配なのは、決勝戦当日に、出場選手のコロナ感染が発覚した場合の対応です。驚愕のプレーあり、逆転劇あり、新記録あり。白熱した戦いが繰り広げられ、ボルテージが最高潮に達する決勝戦にあたって、選手の陽性が判明したら…。
国内の主要なスポーツ大会で、コロナ感染を理由に決勝戦が中止になった事例は殆どありません。筆者の知る限りでは、パ・リーグで首位争いを繰り広げていた千葉ロッテが、昨季最終盤に選手13人の感染が発覚して大失速したぐらい。バレーボールの全日本高校選手権に出場した福岡県の高校で部員9人のコロナ陽性が発覚したのは、優勝を達成した数日後でした。決勝戦後に検査をしたから良かったものの、東京五輪では、海外選手を毎日PCR検査します。
団体競技なら、選手の替えが利きます。しかし、個人競技で棄権、試合中止などという事件が発生すれば、選手も観客も興醒めどころでは済みません。無症状なので出場させてくれ、と泣いて懇願したり、PCR検査の精度が疑わしいので偽陽性だ、と抗議したりする選手が現れるかもしれません。決勝戦に出場する選手が両方陽性だったら、どのような判定が下されるのでしょうか。もしくは、片方が先に棄権を申し出たものの、実はもう片方も陽性だった場合、先に申し出た方が敗戦者になるのか、双方が棄権扱いになるのか。非常に難しい問題です。
公平さを重視すれば、一律で強制棄権とするのが最善策かもしれません。それでも、選手は気持ち的に裁定を受け入れることが出来るのか。少しでも日程に融通が効くなら、延期実施して欲しいと筆者は考えます。不可能だとしても、様々な揉めごとが想像されるので、五輪組織委員会は対応策を練って、予め出場選手に説明しておく必要があるでしょう。
マスコミの報道の仕方も問われます。選手のコロナ感染をセンセーショナルに伝えるのも、過小報道するのも、好ましくないと思います。五輪の熱気を盛り下げず、かつ事実を曲げずに伝える方法を、各社は検討しているでしょうか。残り82日。対策を練る時間はまだ残されています。
参考記事:
2日付 読売新聞朝刊(大阪13版)3面「厳戒 五輪テスト大会」