こんな時だからこそ 今まで以上の「心」を

小説は直接的には社会の役に立ちませんが、小説という働きを抜きにしては社会は健やかに前に進まない。社会にも心はある。

 

「小説」というフレーズでピンとくる方もいるかもしれません。4月1日に開かれた早稲田大学の入学式で、作家の村上春樹さんが母校の後輩たちに話したものです。

村上さんも言うように、社会には心がありますし、心なしには社会は回っていかないかもしれません。人との関わりがはばかられる今こそ、その心というのは、社会にとっても、そして1人1人にとっても、より強く意識しなければいけないことなのではないでしょうか。

この1年間、初めての大学生活を過ごすなかで思ったことがあります。ZoomやWebexといったシステムを使って授業が進められていくなかで、人と親しくなることは難しいということです。交流が皆無ではありませんが、やはりオンライン上だけでは限界があります。

たとえば、英語の時間やゼミなどでは、PCの画面に映る受講生の顔を見ながら、ともに授業を受けることはできます。しかし、授業後の雑談で互いを深く知ることができません。中途半端な距離感のままで、人間関係が構築しきれていないと感じることが往々にしてありました。

新年度に入り、私の所属する団体でも恒例の「新歓活動」がありました。話の端々から1年生が大きな不安を抱えていることが伝わってきます。コロナ禍の受験を乗り越え、やっと入ったものの、右も左も分からない環境の中で友達を作ることもできないのではと不安に思っている人は多いようです。しかも、今の感染状況を受け東京都よりオンライン授業の要請も出され、こうした授業形態はまだしばらく続きそうです。

私自身は、コロナウイルス流行前の大学生活を知らない2年生です。だからこそ、新入生のその不安に最も共感し理解を示してあげることのできる存在であると感じます。人間関係が充実しないままではあっても、2年生にもなり、それなりにオンライン授業の要領がつかめてきた実感があります。

なかなか親しくなることができない、つまり「気」が置けない仲になるのにはハードルが高いかもしれません。誰もがコロナ禍の自粛に辟易とし、ともすれば殺伐としがちであることを分かっているからこそ、これまで以上に相手への思いやりや配慮といった「心」を置いて、新しくできる後輩やこれから出会う同級生に接していきたいものです。

 

参考記事:

2日付 読売新聞朝刊(東京12版29面)「村上春樹さん 早大で祝辞」

9日付 読売新聞朝刊(東京14版31面)「上京大学生 ため息」