社会人を目前に控えて思うこと

先生、本当は専業主夫になりたいんだよね。

小学校の頃、大変お世話になっていた塾講師の言葉です。授業の合間にぽろっとこぼれた一言は今も強く印象に残っています。

男は仕事に行き、女は家を守るもの。当時の筆者には、その考えが強く根付いていました。将来の夢は、母のような専業主婦になること。「専業主夫」という概念は、筆者にはまだありませんでした。

月日が経ちました。世の中には、子育てと仕事を両立する女性が増えました。男性が子育てに奮闘する姿が取り上げられるようになりました。筆者の夢も変わり、長く働きたいと願うようになりました。SNSやネットでは、多様な価値観がシェアされ、筆者自身の考えも社会も少しずつ変わりつつあります。

目指すは、「多様性が認められる社会」。理想の実現に向けた動きは、多く見受けられます。しかしながら、それらには少々偏りも感じます。例えば、「女性が活躍する社会」。働く女性をクローズアップするあまり、仕事を辞め、家庭に入りたいと声を上げづらい場合があるようです。SNSで次の言葉を目にしました。

君は働く女性のロールモデルだから、これからも仕事を続けてね。

「女性も働きやすい会社」をアピールするために、仕事を辞めないようプレッシャーをかけられているようでした。

今の日本は「働く女性」に目を向けすぎているのではないでしょうか。また、掲げる理想の女性像。仕事も家庭も100%全力投球する人物のようで、窮屈にも感じます。社会を変えるためには、形から入ることも必要でしょう。しかし、極端すぎてはいくら理想を明示しても人々はついていきません。

性別に関わらず、それぞれが理想とする姿は違います。仕事に専念する人も、家庭のことに専念する人も、外と中から2人で分担して家族を支える人もいてよいはずです。目指すべきは、「女性が」働きやすい社会ではありません。働き続けたいと願う「誰もが」働きやすい社会です。そして、その実現のためには制度だけではなく、1人1人がお互いの生き方を認め合う姿勢も必要です。

4月から社会人になります。これから、どのような未来が待ち受けているかは分かりません。家庭に入りたいと願う日も来るのかもしれません。岐路に立ったとき、思うままの選択をしたいものです。その実現のためにも、まずは筆者自身偏った考えを持たないよう、広い視野を持って過ごしていきたいと思います。

参考記事

3日付 日本経済新聞夕刊(東京3版)10面「性差『らしさ』を疑う」

同日付 朝日新聞夕刊(東京4版)6面「『女性だから』期待され もやもや」