人が人を動かす

先月行われた日経地方創生フォーラム「地方でしごとをつくる」(主催:日本経済新聞社)の様子が記事になっていました。自らの出身地であるかどうかとは関係なく、いま暮らす場所の環境や生業を大切にする。そして、まっとうなものをつくり広めるという意気込みと適度なビジネス感覚を持ち合わせる人たちが、元気な地域には必ず存在するとわかりました。内閣府の世論調査によれば、住んでいる地域に活気がないという思いを抱く人が増えているそうです。

地域づくりの歴史を振り返ってみます。1980年代半ばから90年代前半に遡ります。このときには、経済開発による「地域活性化」が掲げられました。ほとんどはリゾート構想です。バブル崩壊に伴い、計画の多くは白紙に戻ります。90年代半ばになると、いよいよ「地域づくり」という表現が使われ始めます。福祉・環境を含めて、地域の実情を踏まえ地域住民が自らの手で立ち上げるようになりました。地域のシステムを再編し、新たに創造する時代です。そして最近では、地方創生に力を入れています。4日、2016年度に創設する交付金の規模についての基本方針が出ました。そんな中で各地域はなにをすればいいのでしょうか。

地域に愛着を持った人々によって、自然・環境・人的支援を活かして、活気ある地域づくりをしている農山村や集団は決して少なくありません。私の大学には、長野県野沢温泉村への学生派遣プログラムがあります。この村では、高齢化や都市部への人口流出が深刻な問題となっています。学生と地域住民が交流し、連携するだけでなく、現地調査や取材を通して「地域活性化への提言」を行ないます。私も参加しています。そこでは、人と自然、人と人の関係性の豊かさに気がつきます。単に経済成長や市場原理という世界にとどまっていません。

このような地域を応援するために国や自治体による、ある程度の公的支援が必要なことは当然です。しかし、現場では住民自身も地域の魅力に気が付いていないこともあります。さらに、地元への愛着があるにもかかわらず、どこにどう表現したらいいのかわからないことも多いのです。これは自治体にも言えるでしょう。各地域に求められているのは、第一次産業や生業を大切にしながら新たな仕事に結びつけ、暮らしを守ることです。「補助金」「交付金」のお金の問題も重要ですが、一番カギになるのは「人」なのです。活性化のノウハウを熟知し、適切に発信できる「人」のことです。柔軟な感覚で魅力を発信している先進地から学び、自らの地域との共通項を見つけ出す。そのうえでリーダーと住民が取り組んで大きな波を起こす。全国にそうしたうねりが広がることを期待したいものです。

 

参考記事:

6日付 日本経済新聞 30,31面 日経地方創生フォーラム 地方でしごとをつくる