ついに受験シーズンが幕を開けました。今月中旬には、国公立大学の一次試験にあたる「共通テスト」が開催。鼻マスクの件以外は、大きな混乱なく無事終わったようです。来週からは、私立大学の入試が始まります。受験生にとっては人生の大きな分岐点。今まで培ってきた実力を十分発揮できるよう祈っています。
今年の大学入試には、様々な注目点があります。上智大学の共通テスト参入。横浜国立大学の二次試験中止。そして、早稲田大学政治経済学部の数学必須化です。従来、政経学部の一般入試では、センターの結果を用いず、230点満点の独自試験が設けられていました。外国語90点、国語70点に加え、地歴か数学が70点。
今年からは200点満点となり、そのうち100点に共通テストの点数が反映されます。総合点がそのまま圧縮される訳ではありません。様々な科目のうち、外国語、国語、数学Ⅰ・A、その他 (地歴、公民、数学Ⅱ・B、理科基礎のいずれか)をそれぞれ25点満点に換算します。そのうえで、100点満点の独自試験を実施します。日英両言語による長文を読み解く形式で、特定科目の知識に依らない思考力を問うような問題となる見込みです。
中央公論の最新号に掲載された、田中愛治早大総長と萩生田光一文科相の対談によると、今回の入試改革は15年程かけて準備したそうです。反対意見が多く出たため、議論に時間がかかったのかもしれません。最終的に数学が必須化された背景には、計量政治学を専門とする田中総長の強い意向があった、と推察する向きも。ともかく、早大看板学部の入試制度の激変は、様々な憶測や波紋を呼びました。
教育業界の関係者の多くは、国公立大学を併願する受験生に、制度変更が有利に働くと予想しています。従来、早大を第一志望とする人は、数学の勉強を捨てて、英語、国語と地歴系の科目に全力を注いでいました。早大では、地歴の教科書の隅にしか載っていないようなマニアックな知識が問われることが多々あります。それゆえ、三教科特化型の専願勢は、より多くの教科を勉強しなければならない国公立大の併願勢と比べて、圧倒的に有利でした。今回、Ⅰ・Aだけとはいえ、共通テストの数学が必須になったことで、両者の差は以前より縮まるでしょう。
制度変更を嘆く意見もあります。従来は、数学が全く出来なくても、文系科目については深い知識を持っている受験生が受かる仕組みだったので、早稲田には、ジェネラリストを求める東大とは少し異なる層の優秀な人が集まっていました。通常の模試における偏差値どおりには合否が決まらず、逆転のドラマもありました。しかし、今回の変更によって、単に東大に不合格だった人の受け皿となり、大学の序列化が進むのではないかと危惧する人がいます。
偏差値の序列と一線を画すような入試を実施する大学としては、東京工業大学が有名です。東工大の二次試験は、数学と理科の点数比率が極めて高くなっています。そのため、英語や国語を苦手とするものの、数理分野において天才的な能力を持つ人が集まる傾向が見られます。東大の下位互換とはならないよう、点数配分を工夫しているのです。
筆者が通う大阪大学外国語学部も、偏差値的には早大や東工大と差がありますが、かなり特殊な配点を設定しています。共通テストに対する二次試験の配点比率は77%。その二次試験の点数の6割を英語が占める一方、数学が必須ではありません。とにかく語学に向いている学生を集めたいという募集方針の表れです。国立大学の中では異例だと思います。
このような各校の試験問題や点数配分の特徴に応じて、受験生は戦略を練って勝負に挑むわけです。さて、早大政経学部の受験生は増えるのか、減るのか。どんな問題が出題されるのか。どんなタイプの人が合格するのか。試験は2月20日。合格発表は同月28日。私立最高学府の動向に注目が集まります。
参考記事:
朝日新聞、日経新聞、読売新聞 教育分野の記事など
中央公論 21年2月号 「特集:これでいいのか? 日本の大学」