多文化共生社会の実現に向けた、新しい取り組みです。大阪府警が、府内に暮らすベトナム人向けに、日本の交通ルールをベトナム語で説明したパンフレットを作成しました。背景には、在留人口の急増に伴う、交通事故の件数増加があります。日本の交通ルール、特に自転車利用のルールや注意点を知ってもらうことで、事故防止に役立てる狙いです。
外国語学部に所属する筆者は、学内外で外国人と交流する機会が多々あり、交通ルール周知の重要性を痛感しています。一口に在留者と言っても、様々な人がいます。大学の留学生の場合は、キャンパス近くの下宿から徒歩で通学する人が多く、車両を使う機会は限られます。文科省や母国の政府から奨学金を得ており、金銭的な余裕がある印象です。一方、出稼ぎ目的で来日している人は、最低限の食い扶持を稼ぐことで精一杯。電車やバスなどの交通費を浮かすために、中古のオンボロ自転車をどこからか入手してきて、移動手段として用いる人が多いと感じています。
自転車の操作方法こそ万国共通ですが、走行環境や交通ルールは日本と海外で大きく異なります。安全に気を付ければ良いとは言えど、そもそも「安全」の基準、概念、感覚が違うのです。発展途上国では、原付や自転車、リヤカー、小型三輪タクシーなどを公道でよく見かけます。過積載の自動車や3人乗りバイクが走っていることもしばしば。しかし、日本は、自転車を初めとする小型車両で通勤したり、行商する人は圧倒的に少なく、幹線道路は殆ど一般車両しか通りません。都市部の交通渋滞も少なめです。その代わり、道路標識はたくさんあります。このような環境の違いを考慮すると、日本の交通ルールを周知させることは非常に重要だと思います。
また、近年は、自転車のスマホ見ながら、イヤホンつけながら運転、夜間の無灯火運転をしている人が、国籍関わらず数多く見受けられます。非常に危険です。「ながら運転」は許される、という誤解を与えないためにも、正しいマナーを教えることは欠かせません。
パンフレットは、英語版、韓国語版、中国語版が元々あったのに加えて、今回、府警が独自にベトナム語版を5千部作成。日本語学校や企業に配布します。行政機関がベトナム語で情報を発信する例は珍しく、画期的な取り組みと言えるでしょう。ただ、3万人超の府在住ベトナム人に対し、数は足りていません。府外の在留者に注意を呼びかけるためにも、SNSを通じて情報を拡散する必要があると思います。その他の外国人に、どのように周知を図っていくかも課題です。ベトナム語の次は、インドネシア語、ネパール語、ポルトガル語などと作っていけば、キリがありません。別の有効な手段を考えるべきでしょうか…。共生社会の実現に向けた道のりはまだ始まったばかりです。
参考記事:
10日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)19面「府警、ベトナム人向けパンフレット 日本の交通ルール知って」