一昨年、祖父母の住む島根県出雲市で、タクシーの車窓から多くの外国人を見かけました。サイクリングをしたり、地元の人と花火を買ったり、家族で食料品を買ったり。カメラを片手に出雲を観光する外国人とは、何かが違います。運転手に理由を聞いてみると、彼らは近くの出雲村田製作所で働くブラジル人とのことでした。祖国から家族を連れてくるため、市内に住むブラジル人の数が増えているのだと教えてくれました。
出雲村田製作所の工場では、携帯電話などに使われるセラミックコンデンサと呼ばれる電子部品の開発、生産を行っています。電子部品の需要増を受け、2018年には今後3年間で400人の新規雇用を計画。人材派遣を2社の請負会社に委託しており、そこを通してブラジル人労働者が市内に住むようになったのです。
市が毎月発表している「出雲市の人口(地区別、町別、国籍別)」を見ても、明らかです。
発表されている2015年から年々増え、昨年5月には過去最高の3628人を記録しました。しかし、そこから徐々に減り始め、12月にはとうとう3000人を切りました。理由は世界経済の減速、昨年劇化した米中貿易摩擦。工場も生産調整に迫られ、雇用人数、勤務日の減少を余儀なくされました。これを受け、生活を心配したブラジル人が市外に流出してしまったのです。新工場の新設で、少しずつ戻りつつあると思われますが、外国人労働者の不安定さは拭いきれません。
三重県多気町のシャープ三重工場では、派遣されていた93人が解雇されました。そのうち76人はフィリピン人。業績悪化による非正規や外国人解雇の影響は、働き手のみならずその家族にも。
米中貿易摩擦やコロナウイルスの蔓延など、経済基盤を揺るがすことが起きたとき、その矛先の多くは非正規労働者、外国人労働者に向けられます。これからの日本に欠かせない、貴重な労働人口、地方の起爆剤になり得る人材です。人口減少が進む地方にとってはなおのこと。スイスの作家マックス・フリッシュ氏は言いました。
我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった
労働は、数えきれない個々人が集まって成り立ちます。早急に彼らを守る術が求められます。
参考記事:
16日付朝日新聞(東京14版)24面(社会)「外国人 暮らせない」
2017年4月20日付朝日新聞デジタル「何のご縁?出雲でブラジル人急増中」
2019年12月4日日経電子版「島根県出雲市、外国人が職求め市外へ 世界経済減速で」
参考文献:
徳田剛, 二階堂裕子, 魁生由美子 編著(2019)『地方発外国人住民との地域づくり ―多文化共生の現場から』晃洋書房
参考資料: