大阪市西成区にある日雇い労働者の街・あいりん地区。日本最大の「ドヤ街」で暮らす人々の暮らしは、コロナ禍の今、きわめて厳しい状態に置かれている。
「日雇いはもうほとんどないですね。一週間に1日とか2日とかそんくらいですね」。そう語るのは、あいりん地区にある公園にいた無職男性(49)。現在、彼は「特別定額給付金」の10万円などで、なんとか糊口をしのいでいるそう。
他の労働者にも話を聞いてみても、「仕事が忙しくなる梅雨明けでもほとんどない」、「(日雇いの仕事の)70%減は妥当」と返ってくる。かなり厳しいことがわかった。また、仕事を紹介する「手配師」の男性も「例年と比べ5割以上は仕事が減った」と話していた。統計的なデータがないため、あいりん地区における働き手の正確な減少率はわかっていないが、おそらく5割以上減っていると思われる。
日雇い労働者は、好景気では目一杯使われ、不況時には一気に切り捨てられる「労働力の調整弁」として使われてきた。コロナ不況の今、彼らは就労の場を奪われている。
そんな人たちに対して、支援をしている男性がいる。大阪府警西成署の向かいにある「淡路屋」の店主の大前孝志さん(45)。新型コロナウイルスの影響で仕事がなくなった労働者らに、かけうどんを一杯無料で提供している。
無料提供を始めたのは、売上が10分の1以下になり、仕入れたうどんを廃棄しなければならなくなったことがきっかけ。
「『かけうどん』一杯無料にて提供させていただきます。9月、筆者撮影
「無料かけうどん」を食べに来る人が10人を上回る日も多いそうで、取材中にも数人ほどがやって来た。中には申し訳なさそうに、かけうどんを食べる人もいたが、「困ってる時は、お互い様や。いつでも食べにきいや。そんかわり将来儲けた時は頼むで」と冗談を交えて、声をかけていた。
「淡路屋」にて。9月、筆者撮影
「お客さんが少なくなって、うどんを捨てやなあかんくなった。けど、それはもったいない。じゃあ、困ってる人にただで食べさしたろ、そう思えるようになったんは、コロナのおかげ。やから、今回のコロナではええ勉強さしてもらったと思ってる」
取材後、私もかけうどんを頂いたのだが、とても温かく、優しい味がした。今日もあいりん地区では、一杯のかけうどんが、日雇い労働者の生活を支えている。