「米国の政財界や主要メディアは「影の政府」に牛耳られており、それに闘いを挑む救世主に選ばれたのがトランプ大統領である」
これは熱狂的なトランプ派の陰謀集団「Qアノン」の主張である。
熱狂的なトランプ派の個人やグループが2017年に「Q」というハンドル名で匿名のネット掲示板「4チャン」に陰謀論の投稿をしたことが由来だ。ちなみに、「アノン」は匿名を意味する「アノニマス」から派生しているという。
彼らの主張は一見すると、荒唐無稽で取るに足らない陰謀論である。しかし、SNSを通じて急速に信奉者が増え、今年8月には、下院選の南部ジョージア州第14選挙区・共和党予備選で「Qアノン」信奉者である実業家マージョリー・グリーン氏が勝利するまでに至った。
さらに、トランプ米大統領は、グリーン氏を「未来の共和党のスター」と称賛。Qアノンを「私を好きらしいということ以外はよく知らない」としたうえで「米国を愛する人たちだと聞いている」と好意的な発言をした。
人々を扇動しかねず、政治に影響を及ぼし始めた「Qアノン」運動に対して、米連邦捜査局(FBI)は昨年発表した報告書で、「過激主義者の集団または個人を、犯罪や暴力行為」に駆り立てる可能性があるいくつかの運動の一つだと評した。しかし、彼らの米国社会への影響力は日増しに拡大している。
では、日本社会では同種の現象は起こっていないのだろうか。私は「Qアノン」ほど巨大化はしていないが、一部の界隈に同種の主張をする人々がいる、というのが国内の現状であると考える。
例えば、「在日韓国・朝鮮人が政界やメディアを支配している」との主張だ。ある特定の勢力が裏で糸を引いているという陰謀論の構造はまさに、「Qアノン」のそれと同じと言えよう。
現在、日本国内では、このような陰謀論は「Qアノン」のように影響力はなく、政治に直接的な影響は与えていない。しかし、決して侮ってはならない。なぜなら、「Qアノン」が誕生して影響力を持つまでに、3年もかからなかったからだ。
つまり、日本国内でも、何かトリガーとなる出来事さえあれば、「在日韓国・朝鮮人が政界やメディアを支配している」との陰謀が瞬く間に広がる可能性は十分にあるのである。
「Qアノン」のような陰謀集団は、国民を煽動し、犯罪や暴力行為を引きを起こしかねず、極めて危険である。その為、日本社会で彼らのような勢力が影響力を持たせないためにも、私たちは差別や偏見を煽るような陰謀論者には逐一、反駁し、健全な社会を守らなければならない。
参考文献:
18日付日本経済新聞朝刊(大阪12版)6面「「Qアノン」米の内なる敵」
朝日新聞デジタル「トランプ氏お墨付きの陰謀論 「影の政府」の幻を追った」
https://www.asahi.com/sp/articles/ASN9B3D74N92UHBI00V.html
日本経済新聞「「Qアノン」政界進出に懸念 トランプ氏も容認発言」
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO64085100Z10C20A9000000?s=5