従来のイメージを払拭 牧場、変わる

 

<東京にも牧場が 気になり訪問>

東京多摩地域の北部に位置する瑞穂町。ここに都内で一番大きい牧場があります。1946年創業の「清水牧場」です。最寄り駅であるJR八高線・箱根ヶ崎駅からバスで数分。のどかな田園風景を抜けると牧場が見えてきます。本日のあらたにすは、牧場の今を届けるとともに、日本の酪農事情について考えたいと思います。

清水牧場に興味を持ったのは一か月ほど前のこと。新型コロナウイルスの影響で学校給食がなくなり、牛乳が余っているというニュースから、東京にも牧場があるのか気になったのが発端です。そして昨日ついに訪れることができました。

 

エサを食べる二匹のヤギ 9月15日、筆者撮影

 まず筆者を出迎えてくれたのは、二匹のヤギ。お母さんの「みいちゃん」と子供の「るるくん」です。草をバクバク食べているのを見ているだけで、癒されます。いやあ、東京にもこんなにのどかな場所があったのか、と。そこへ三代目牧場長の清水陸央さん(62)がやって来ました。優しく、どんな人でも包み込んでくれるような笑顔の方です。

 

<最先端の牛舎を見学 そこには…>

牧場を見学しただけでなく、清水さんから酪農の話を伺うこともできました。まずは見学について。牛舎や併設するジェラート屋さんを見させてもらいました。中でも驚いたのは、牛舎の設備です。建物の上部を見ると、柱に扇風機が。奥の方にはロボット搾乳機があり、牛たちが人の手も借りず一匹で機械まで歩いて行き、搾乳されます。1匹ずつ番号が振られており、牛たちがいつ搾乳機に入ったのか、どれだけお乳がとれたのか機械が自動で記録します。そして異常があれば、すぐに清水さんの携帯に連絡が入るそうです。

 

上:子牛 下:二階からみた牛舎。柱には扇風機が。この真下に搾乳機がある。

9月15日、筆者撮影

 

階段を上り、2階から牛舎を見下ろすと、エサを食べている牛もいれば、涼しんでいる牛も。筆者も熊本に住んでいた時、近所に牧場があったのでよく見に行ったのですが、みんなエサを食べているだけでした。酪農家といったら、365日昼夜問わず働かなければならないイメージがあったのですが、今回の見学を経て、工夫次第で働き方は変えられるのだなと思いました。

 

<酪農離れが進む日本 私たちにできることは>

次に清水さんにお話を伺いました。内容は東京をはじめとする国内の酪農状況について。ここでは、見学と打って変わり、酪農離れの深刻な現状を学びました。農林水産省の統計によると乳用牛飼養戸数は、平成22年度2万2千戸ほどだったのが平成31年度には1万5千戸に。年率4%程度減少しているといいます。「(このまま牧場が減り)アメリカから牛乳を輸入しようとすると鮮度の落ちた美味しくない牛乳を飲むことになってしまう」。清水さんはそう危機感を抱いていました。また「日本の牛乳を守るために多く買ってほしい」とも話します。

 

<取材を終えて>

取材終わりに牧場に併設されたジェラート屋「清水牧場 WESTLAND FARM」を訪れました。筆者は、いちごミルクとチョコラータを注文。食べながら、清水さんが「独り勝ちはダメ」と言っていたのを思い出しました。ジェラートに入っているいちごやみかん、ブルーベリーは地元のものを使用。町全体を盛り上げようとする姿勢に敬服しました。

 

「清水牧場 WESTLAND FARM」のジェラート。9月15日、筆者撮影

 

また「直接牧場まで来て、牛舎の匂いを嗅いでほしい」という言葉は、昔ほど消費者と生産者の間に交流がないことを意味しているのだと思いました。私たちはスーパーを訪れ、100円ちょっとお金を出せば、牛乳を買えます。しかし、その裏には酪農離れが進んでいる中でも頑張る酪農家たちの頑張りが。ありがたみを知るため、とは言いませんが、私たちの食卓に届くまで、どうやって牛乳が出来ているのか一度自分の目で確認してみてはいかがでしょうか。

 

参考記事:

9月16日日本経済新聞デジタル「猛暑で夏バテ、搾乳減 肉用子牛も値下がり 酪農経営にダブルパンチ」