コロナ禍は様々な分野に影響を及ぼしていますが、サッカー界もその例外ではありません。世界各国で、観客の入場制限を実施中。日本こそ1試合5000人の動員が許されているものの、欧州では無観客試合が未だ続いています。規制緩和を模索する動きがありますが、スタジアムが満員に埋まることは暫くないでしょう。
観客の大幅減による収益低下は、どのクラブも免れません。コロナ以前から債務を抱えていた中小クラブへの影響は特に深刻です。独3部カイザースラウテルン、英2部ウィガンが既に破産しました。今後も無観客試合が長引けば、破産に追い込まれるクラブは増えかねません。メガクラブなら赤字に転落することはないと思いますが、巨額の収入を失っているのは事実です。英1部の強豪アーセナルですら、職員55人の解雇を検討している程です。このような背景から、欧州のサッカークラブの運営環境に様々な変化が生じています。
まず、移籍市場の動きが鈍くなっています。有名選手と大金が動くビッグディールも少なくなっています。近年、欧州サッカー界では移籍金のハイパーインフレが起きて、物議を醸していました。しかし、各チームの財布の紐が堅くなることで、移籍金高騰には歯止めがかかりそうです。
変則的なスケジュールも、市場の動きが鈍い一因です。例年ならば、レギュラーシーズン後半となる1月から5月頃の選手の活躍を受けて、7、8月に選手の大移動が起こるはずでした。しかし、今年は4月に中断して、6月下旬から8月までに、シーズンの約4分の1にあたる試合数が消化されました。過密日程により疲労が蓄積し、コンディションを落とす選手が続出した印象です。好不調の波があるので、若干2ヶ月程度の期間のみで正確な実力を測るのは難しいと思います。さらに、オフシーズンが例年より短いため、マネージャーが補強戦略をじっくり練ったり、他チームと交渉したりする時間も十分ないのです。
日本から欧州に移籍する選手も減っています。去年は、FC東京からレアル・マドリードに移籍した久保選手を初め、計15人の日本人がJリーグから欧州へ渡りましたが、今年は僅か5人。少し寂しいですが、外国人選手の獲得に消極的になるのは理解できます。母国とリーグのある国を往復すれば、感染リスクは高まります。世界最高峰とされる英西独伊の4大リーグは、従来、世界各地から有望株をかき集めていました。外国人選手の割合は、Jリーグの16%に対し、4大リーグでは50%前後。このサッカー界のグローバル化も一旦滞るかもしれません。
新戦力を獲得出来る望みが薄いとなると、現有戦力を最大限駆使して、練習を重ね、プレーの質を上げていくしかありません。選手に指示を出す監督の手腕が今まで以上に問われることとなります。
欧州サッカー界は2020年を分岐点にして、勢力図が大きく変わる可能性があるのです。くしくも、今季の欧州チャンピオンズリーグでは、優勝候補筆頭格と目されていたイギリスとスペインの諸チームが準々決勝までに全て敗退する波乱の展開となりました。独ライプツィヒや仏パリ・サンジェルマンの躍進は新時代の幕開けを予感させます。
日本はどうなるのでしょうか。今のところ、Jリーグに異変はありませんが、代表では世代交代が起きています。南アフリカW杯以来、チームを牽引してきた長谷部、本田、長友、川島らが代表引退。その一方で、久保を筆頭に、堂安、冨安など若手が台頭してきています。コロナの逆境を乗り越えて進化を遂げることが出来るのか。それとも、成長が止まってしまうのか。日本代表の真価が問われます。
参考記事:
23日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面 天声人語