島根県に住む祖父母と電話で話しました。最近観光客をよく見かけるそうです。「コロナ疎開」「東京脱出」という言葉があるように、コロナウイルス感染者がいない、もしくは少ない県を観光で訪れたり、帰省したりする人が増えています。島根県の感染者は現在2人(4月10日20時現在)。私は体が丈夫でない祖父母のことを考え、春休み中の帰省を思いとどまりました。会いたいという気持ちを我慢しているにもかかわらず、旅行客が増えているという事実にやるせなさが募ります。
祖母は話しています。
「都市部の人は驚くかもしれないが、県内には医療施設の数に偏りがありすぐに病院に行けない人もいる。高齢者が多いから観光客や帰省する子がどんどんコロナを持ち込むのではと怖くなる。この医療体制の中で感染してしまったら、自分だけでなくご近所さんにも迷惑をかけてしまう」
持病のため電車で片道50分かけて大学病院に通う祖母の言葉には説得力がありました。筆者も帰省中溶連菌に感染し、小児科のある市内中心部まで車で30分かけて連れて行ってもらった記憶があります。
厚生労働省クラスター対策班の押谷仁東北大学教授は、
地方ではまだ医療機関の準備の十分にできていないところも多く、そもそも医療資源が乏しく高度の医療が提供できる施設も限られています。そのような地域では少数の感染者が出ただけで医療体制は維持できなくなります
と医療体制のもろさを指摘しています。
もちろん地方への移動だけを避ければよいというわけではありません。名古屋市への帰郷を断念した男子大学生に話を聞きました。症状はないものの、自分が感染しているリスクと同居する祖父母のことを考えたら帰れなかったそうです。コロナ疎開、東京脱出と聞くと彼は、Twitterで見かけたというアリの巣穴の話をしてくれました。薬剤をかけられたアリが巣穴に戻ると、直接それを浴びていないアリたちにも薬剤が付着して巣ごと全滅するというのです。「これってコロナ疎開と似ている。家族を危険にさらしているかもしれないのに無自覚な行動だ。」
同じ思いをしている学生がいることを知り、我慢しているのは自分だけではないと再認識しました。日本ばかりでなく世界中で数えきれない人が我慢し、悔しく、悲しい思いをしています。会いたい、遊びたいという気持ちは世界が前を向くことができた時まで取っておきましょう。自分の、家族の、そして目に見えない多くの人々の命を大切にしなければなりません。自分が後悔しない行動を取りたいと思います。
参考記事:
10日付 朝日新聞、読売新聞 新型コロナウイルス感染症関連記事
7日付 朝日新聞朝刊(14版)26面(社会)「#東京脱出 専門家「やめて」」
同日付 日経新聞電子版 「緊急事態宣言 中国5県「コロナ疎開」警戒」
9日付 朝日新聞朝刊(14版)27面(社会)「コロナ疎開控えて」
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