コロナウイルス 日韓応酬 失望しかない

まもなく、韓国への自由な渡航ができなくなる。韓国外交部は6日、日本人に認めている90日間のビザ免除措置と、発行済みのビザの効力停止を発表した。日本政府が5日に打ち出した中韓両国からの入国制限強化措置に対する、事実上の対抗措置とみられる。また、海外渡航に関する警報について日本を「旅行留意」から「旅行自粛」に引き上げる措置も発表した。

日韓両国の唐突な措置に、戸惑いの声が広まっている。ソウル市内の大学に留学している日本人の女子学生(21)は「学生ビザなども効力停止なるのかよく分かっておらず、大まかに『効力停止』とだけ発表されるのはどうかと思う」と苦言を呈した。また「金曜の夜に決定した措置を月曜から突然始めると言われても、週末は大使館に連絡が取れない」と困惑する。周囲には日本に一時帰国している友人もおり、韓国に再入国できるか見通せない状況だという。

韓国内でも特に感染拡大が著しい大邱市に交際相手がいる埼玉県の女子大生(22)は、先週予定していた渡航を泣く泣く中止した。今回の韓国政府の措置について「日本の措置も急だったが、韓国側の対抗措置はちょっと疑問。これからの日韓関係と韓国の観光業を滞らせるだけだと思う」と釈然としない様子を見せる。交際相手の韓国人男性も「日本の措置に怒るのは分かるが、この対応は間違っている」と自国政府の動きを疑問視しているという。女子大生は「いつ彼と会えるのか、今後ずっとビザを取らないと韓国に行けないのか。大邱に住む彼はいつ日本に入国できるのか」と尽きない不安を吐露する。

11日に除隊予定だった兵役中の筆者の友人(22)も、下旬に予定していた日本への家族旅行の中止を余儀なくされた。2年ぶり日本で再会する予定だったが、無期限延期となった。

安倍晋三首相が中韓両国の入国制限強化を側近に指示したのは4日午前。翌日には新型コロナウイルス感染症対策本部で措置が決定され、さらに翌6日には同措置に閣議了解が成された。日本外務省はホームページ上で今回の措置を以下のように説明している。「諸外国での新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中,今が正念場であり,感染拡大を防止するため,国内対策はもとより機動的な水際対策についても,引き続き躊躇なく断行する観点から実施するものです」

水際対策強化について知らせる外務省のホームページ

日本の入国制限強化を封じる朝刊各紙

日本の措置が発表されるやいなや、韓国政府は憤りを露わにした。同国外交部は6日午前のうちに報道向けのブリーフィングの中で、日本政府の措置を「入国拒否」と表現。「政府がこれまで日本側に追加措置に対する慎重な検討を数回促してきたにもかかわらず、事前に私たちと十分な協議もなしにこうした不合理で過度な措置を取ったことに対し極めて遺憾の意を表し、今回の措置を直ちに再考することを強く求める」と述べた。また、康京和(カン・ギョンファ)外相は冨田浩司駐韓大使を呼び出し「(日本の措置は)非友好的で非科学的だ」と批判した。

韓国の大手紙は今回の措置について、紙面上で意見を展開した。

リベラル系大手紙・ハンギョレ新聞は「安倍首相が『復興五輪』という名分で政治的命運をかけて推進してきた東京五輪が延期または中止になるかもしれないという危機感のため、韓国政府との事前協議もなしに拙速に決定したという批判が出ている」と報道。7日の社説では「事態がこうなった責任は、先に入国制限に乗り出した日本の方にある。 (中略)両国関係がさらに悪化する前に、日本が先に入国制限を撤回しなければならない」との主張を展開した。その上で「韓日両国は臨床経験や情報共有などで緊密に協力しながら共に感染病退治に乗り出す姿勢を整えることが必要だ」と連携の重要性にも言及した。

保守系の大手紙・中央日報は韓国政府が日本政府の動向を把握しきれなかったことを批判した。「政府当局が日本の動向把握など、外交的対応に疎かだったことは弁解の余地がない」。一方で「急務は、日本の措置による影響を最小限に抑えることだ。 政府は今からでも、日本の措置を撤回したり、水位を下げるために努力しなければならない。 感情対立に突き進み、状況を悪化させるのが得策ではない。 防疫とは無関係な外交懸案を持ち出す無理を取ることも望ましくない」と冷静な対応を求めた。同じく保守系の東亜日報も「入国制限をめぐる政府間の対立が感情的なレベルに流れ、両国国民間の感情悪化に拡散することは防がなければならない。 韓国政府も冷徹な対応基調を守らなければならない」と社説で論じた。

筆者は、日韓両政府の対応に失望を禁じ得ない。日本政府の対応は遅きに失した感が強く、疑問点も多い。中国の習近平国家主席の来日や夏の東京五輪・パラリンピックの影響を気にするあまり、後手に回った結果が今回の措置なのか。中韓両国との事前協議もなく、週末を経ただけで効力を生じさせるのは「迅速」との評価より「唐突」との印象しかない。「今が正念場であり,感染拡大を防止するため」などと言うならば、既に数十〜数百人単位の死者が出ているイタリアやイランには何故同様の措置を取らないのか。

韓国政府も韓国政府だ。同胞が中国国内で入国拒否や隔離政策がとられている中、何故日本に対しては強気に出てくるのだろうか。コロナウイルスが世界的流行を見せる中で国家を超えた協力が必要な今、重要なパートナーであるはずの日本の防疫措置を一方的に「入国拒否」と見なし、対抗措置に乗り出すのは浅はかとしか言いようがない。文在寅大統領は3.1独立運動記念式典で「ともに危機を克服し、未来志向の協力関係に向けて努力しよう」と呼びかけていたはずだ。たった1週間で方針が変わってしまったのか。

両政府の時局を見誤った対応によるしわ寄せは、結局我々市民に来る。海の向こうの愛する人に会えない。故郷に帰れなくなるかもしれない。徒らに不安を煽るばかりの政府に一体何を求めれば良いのだろう。

さらに遺憾なのは、此の期に及んで互いを憎悪する声が大きくなりつつあることだ。日本に留学中の友人は「これでまた韓国を叩く人間がいる。日韓仲良くなってほしい立場としては残念」と嘆く。

短絡的に憎悪に支配されている場合ではない。私たちが闘うべきはウイルスである。つまらない応酬でこれ以上不必要な論議を生まないことを、日韓両政府に求めたい。

参考記事:
8日付読売新聞朝刊(東京13版S)1面「中韓から帰国相次ぐ」
同日付朝日新聞朝刊(東京13版)8面「対日入国制限 韓国でも批判」
7日付朝日新聞朝刊(東京14版)1面「韓国 日本のビザ免除停止」
同日付読売新聞朝刊(東京14版)2面「入国制限 韓国、日本に対抗」
同日付日本経済新聞朝刊(東京14版)1面「中韓からの外国人 原則入国認めず」

参考資料:
6日付ハンギョレ新聞「외교부 “일본 입국거부 극히 유감…모든 가능한 상응조치 검토중”(外交部 『日本 入国拒否極めて遺憾…可能な限りの相応措置を検討中』)」
7日付中央日報「[사설] 일본 조치 유감이나 극단적 대립 막아야(社説 日本の措置 遺憾や極端な対立を防がなければ)」
同日付ハンギョレ新聞「[사설] 아베 정부, ‘한국인 입국 제한’ 철회해야 한다(安倍政府 韓国人入国制限の撤回を求める)」
同日付東亜日報「[사설]최소한의 신의조차 걷어찬 日… 中엔 입 닫고 日엔 격앙한 韓 외교(社説 最小限の信義さえ断ち切った日本… 中国には口を閉ざし、日本には激昂した韓国の外交)」

外務省「新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の抜本的強化:査証の制限等について(追加情報等)」