組体操。体操を基礎にして、道具を使わずに人間の体でつくる集団芸術です。日本では運動会や体育祭などでしばしば披露され、「団結力が生んだ芸術」と大喝采を浴びる一方で、骨折や脱臼と言った事故の危険性が潜んでいます。
私が通っていた東京・葛飾区の中学校では、毎年6月中旬に体育祭が開催されていました。この時期になると、生徒たちも先生も勝ちたいという強い衝動に駆られて練習に熱を入れます。クラス対抗リレー、大ムカデ、騎馬戦、二人三脚など様々な種目を毎日朝早くから夜遅くまで練習しなければなりませんでした。なかでも熱が入ったのが組体操でした。当時、私の中学校では全学年の男子生徒が組体操を行うのが伝統でした。一方の女子生徒たちは、EXILEや嵐の曲に合わせてダンスを本番に向けて猛練習していました。
中学に入ったばかりの私は、「何でこんな危ないことをしなければいけないのだろう。 女子生徒たちと同じくダンスをした方がよほど楽しくて盛り上がるはず」と疑問に思い、ドキドキしていましたが、そんなことは口に出せません。意を決して二人組体操の「サボテン」を練習しました。倒立した両足を相手が掴んで両肩に乗せ、持ち上げる組技です。すると運悪くバランスを崩して着地に失敗し、左足首を捻挫してしまいました。結局、その年の体育祭には出られず、体育の評価は最低のCでした。二、三年では、サボテンを何とか成功させ、その後のメイン演目である「四段人間ピラミッド」や「四段塔」には積極的に補助役に回りました。
最近、組体操による骨折や捻挫などの事故が相次ぎ、そのニュースを耳にするたびに、中学生時代を思い返します。「よくあんな危なっかしい技をやり遂げたな」「あの時、補助役に回ってよかった」。今でもこの種目の危うさに背筋が凍ってしまいます。
組体操という種目は、確かに団結力に加えて組技が完成したときの達成感が味わえますが、私からすれば強制的にやらされている感じがして、しかも何の面白みや感動が感じられない、とても危険な種目としか思えませんでした。
「危ないから中止すべき」や「安全を徹底すれば大丈夫」など、賛否両論の声が上がるなか、私は自らの体験を踏まえ、若い世代の安全性を考えた上で次のように考えます。「組体操は中止して、ダンスに切り替わるべきだ」。
6日付 朝日新聞(第12版)オピニオン第9面 「人間ピラミッド」