カタカナ語を使う切実な理由

 お互いに意味がよくわからないまま話が進んでしまうので、カタカナ語を使うのはできるだけ避けるようにしています。そんな中、金融行政において難解なカタカナ言葉があふれるようになったと聞いて不安な気持ちになりました。ところが、この現象には大切な理由があるようです。

 今回注目するのは、金融庁で用いられるカタカナ語について解説した日経新聞の記事、『金融用語なぜ!?カタカナ語連発』です。例えば、「機関投資家が守るべき規範」を指す「スチュワードシップ・コード(SC)」。さらに、「顧客本位の業務運営」を指す「フィデューシャリー・デューティー(FD)」。これら難解なカタカナ語が、金融庁長官のスピーチの中に何度も登場します。

 記事によると、その原因は海外投資家の増加にあります。従来、霞が関では国会議員に説明することを見越して、カタカナ語を使わずに噛み砕いた表現をするのが普通でした。ところが近年、東京市場で海外投資家の割合が増えてきました。東京証券取引所第一部の売買金額に占める海外投資家の比率は、73%にまでのぼります。彼らに対して通用するような言葉を用いることが求められるようになりました。金融庁のホームページには、講演録はそのほとんどが英語で書かれているといいます。

 さて、過去にカタカナ語を扱った記事を集めてみると、イメージ戦略に関するものが多く出てきました。2014年4月の朝日新聞『東武野田線にカタカナ新愛称、らしくない?』では、路線名が話題です。伊勢崎線はスカイツリーラインに、東武野田線はスカイツリーラインに改称しました。当時利用客の反応は微妙だったものの、一方で路線名を冠したマンション販売の動きが出るなど、イメージアップに貢献したとのことです。他にも最近では、富士重工からSUBARUへの改名のように、社名を馴染み深いブランド名に変えるといった方法がとられることもあります。こちらは、9月に日経プラスワンの『社名変更は何のため?』という記事で扱われていました。あえて横文字にすることで、親しみやすくなることもあるようです。

 思えば今、「インターネット」という言葉に注釈を求める人はほとんどいません。難解に聞こえる金融用語も、時間が経てば定着して、日本語の長い説明を省いてくれます。ところが今は、お互いに定義をしっかりと理解してから用いるのが良いでしょう。そうでなくては、後で相手に意味を検索させることになってしまいます。

参考記事:
2016年10月10日付 日本経済新聞朝刊9面 『金融用語なぜ!?カタカナ連発』
2016年9月3日 日経プラスワン 9ページ『社名変更は何のため? 強いブランド世界で有る、カタカナ名、今や多数派』
2014年4月9日付 朝日新聞朝刊3面 『東武野田線にカタカナ新愛称、らしくない?』