政府は12日、成長戦略の具体策を立案する官民合同の会議「未来投資会議」の初会合を開きました。会議の目的は、安部政権が成長戦略の柱として掲げている「第四次産業革命」を推進し、日本経済の底上げを目指すことにあります。12日の初会合では、測量や設計にドローンを用いることを民間企業に義務付ける方針が決まるなど、かなり駆け足で議論が固まった印象を受けます。下部組織を設置して議論を進め、来年夏ごろに成長戦略をまとめる予定です。
「第四次産業革命」という、聞きなれない言葉が出てきました。紙面には「IoTなどの先端技術を組み合わせて活用し、産業の生産性を高めたり、新しいサービスを創出したりする取り組み」と注釈がついています。それでもいまひとつ想像できないので、論文に知恵を借ります。第四次産業革命の主な特徴は以下の三つでした。
1. Iotによって、どこで何が起きているのかを誰でもリアルタイムに把握することができる
2. 1.の結果から製品や設備の状態を的確に制御して、状況に応じた最適化を図る
3. このような状況判断を、人の変わりにAIが自律的に実行できる
なるほど、単に生産性を向上させるだけでなく、生産の構造自体を大きく変えようとする取り組みのようです。
では、追いかける日本ではどんなことが起こるのでしょうか。ヒントになりそうな例も、ドイツにありました。日経ビジネスの記事によれば、ドイツは1980年の「コンピューター製造統合」という失敗経験を持っているのだといいます。人の仕事をすべてコンピューターと機械に置き換えようとしたことで、投資が過大になり、物づくりを支えてきた従業員の支持も得られず、尻すぼみになってしまった。この反省を生かした結果、最新の工場では、ライン工をAIがサポートする形態をとって、成功を収めています。
さて、AIの普及についての否定的な意見のひとつに、「人間がかかわっていないことへの不安」があります。私は昨年の夏、あらたにすに『新聞記事自動作製機』という題の文章を上げました。データさえ見せれば自動的にニュース記事を書いてくれるソフトに関する話題です。人間の手によらない記事は、誤報やミスの際には誰が責任をとればよいのか、当事者意識が薄れてしまわないか、など、私の感じた不安を正直に書きました。最近はテスラの自動運転車で死亡事故が起きて、事故の責任は誰が取るのかという議論が、朝の番組などでも聴かれるようになりました。前述したドイツの例は、多少はこの不安を小さくするように思います。
未来投資会議のもたらす変化が、革命と呼べるほどのスピードと範囲を持つのかどうかは、まだ予測もつきません。ただドイツの例を見れば、現場の人々が、「これならやってみようかな」と思えるような改革から、始まっていくのではないでしょうか。
参考記事:
9月13日付 読売新聞朝刊1面 『成長へ産業構造改革 未来投資会議』
その他関連紙面、社説
参考文献:
・眞木 和俊『製造ビッグデータが導く第4次産業革命(第1回)インダストリー4.0の衝撃 現実化する「全自動工場」 : 機械とヒトの新たなパートナーシップを築く』日経情報ストラテジー 2015年 5月号
・『革命の火蓋切ったドイツの焦りと決意 (特集 逆転の経済 日本を脅かす第4次産業革命 : 米独印、次の勝者は誰だ)』日経ビジネス 2015年1月5日