読者の皆さんは認知症による列車事故に対して、どこまで遺族が責任を負うべきだと思いますか。これに対する答えを出すべく、最高裁の弁論が明日始まります。
2007年に愛知県大府市のJR東海道線井和駅で認知症の男性が徘徊中に列車にはねられ死亡するという事故が起きました。これに対し、JR東海は遺族に約720万円の賠償を求めました。この裁判で争点になったのは誰が故人の監督義務者であったかということです。第一審では介護方針を決めていたという長男と同居していた故人の妻が請求通りの賠償を命じられました。第二審では、長期に渡って別居していた長男の監督義務は認めず、夫婦には助け合う義務があるとして故人の妻には責任があるとしました。ただし、妻の介護への努力を鑑みて半額の約360万円の賠償となりました。そして、最高裁では弁論が開かれることから二審とは異なった判決がでる見通しです。
この事件で遺族に賠償責任が求められるのは、民法714条により「責任能力の無い人の賠償責任は監督責任者が負う」と定められているからです。しかし、今回のような場合、全ての責任を負う必要はないと筆者は考えます。子供の場合であれば、行動力が上がるにつれ判断力も成長するため大きな問題は起きにくいと思いますが、重度の認知症患者の場合は判断力が無いにもかかわらず、行動力は人並みまたはそれ以上の可能性もあり行動の管理が困難であることは想像に難くありません。さらに、病を抱える家族に対して強くあたりにくいことを考えれば、完全な監督など不可能といっても過言ではないでしょう。また、現在の日本はまだ認知症へ十分に対応できる環境にはなっていません。患者の受け入れ先は少なく、今回のような場合に役立つ保険もまだないように思います。
最高裁がどのような判決を下すのかは定かではありませんが、この結果が認知症への対策に影響を与えることは間違いないでしょう。この裁判を通して認知症患者の介護の負担を軽減するために必要なことが明らかになることを期待します。
参考記事:2月1日付朝日新聞朝刊(東京14版)30面(社会面)「徘徊 親族の責任は」