覚えた違和感は、どうやら的外れではなかったようです。チュニジアの民主化運動団体がノーベル平和賞を受賞しましたが、それを伝える昨日の記事に、『「アラブの春」成功導く』という見出しが出ていました。しかし何を以て成功というのでしょうか。半年前のバルドー博物館襲撃、6月に起きたホテル襲撃など、チュニジアにまつわる暗いニュースは絶えず耳にします。そこにノーベル平和賞を授与するとは、現状に対して過大評価ではないか。そんな疑いを向けていました。
実際、今朝の紙面はそんな思いを裏付けるものでした。東方のトルコでは自爆テロが起こり、ノーベル賞受賞に沸くはずのチュニジアでは市民生活の苦しさと不安が伝えられている。文脈の異なるニュースなのでひとくくりにはできませんが、ますます平和への道のりの遠さを感じてしまいます。
しかしながら、よく記事を読んでみるとチュニジアの事情がそう簡単ではないことが分かります。先ほど文脈の異なるニュース、と書きましたが、両国の事情には過激派組織「イスラム国」の存在が暗い影を落とす点で共通しています。チュニジアでは若者の失業率は40%以上。それに関連してか、チュニジア出身のイスラム国戦闘員は約3千人と、国別で見れば最も多いことになります。せっかくアラブの春で達成した民主化、しかしそれに魅力を感じない若者がイスラム国に流出してしまう。権威同士のギリギリのせめぎ合いが起こっているというのが、チュニジアの現状に思えます。
そう考えると、ノーベル平和賞のまた違った側面が見えてきます。ノーベル平和賞は、かつて就任間もないオバマ大統領が受賞したように、時に未来の平和への期待を込めて与えられることがあります。確かにチュニジアには不安が残りますが、リビアやエジプトに比べればまだ民主主義国家の体を成しています。それを成功例として評価したと同時に、イスラム国へ対抗するための権威づけを期待するのが、今回のノーベル平和賞だと思います。チュニジア政府は大きなプレッシャーを感じたことでしょう。理念を掲げるだけでなく、政治もできるということを示してほしいところです。
10月10日付 読売新聞朝刊14版 2面『チュニジア民主化 平和賞』
10月10日付 朝日新聞朝刊14版 2面『時時刻刻 チュニジア 対話貫く』
10月11日付 朝日新聞朝刊14版 8面『平和賞より安全・食料を』
10月11日付 読売新聞朝刊14版 2面『トルコ自爆テロ 86人死亡』