選挙年齢の18歳への引き下げを前にして、高校生・教員向けの指導書が発表されました。懸念点は多少ありますが、高校生が現実の問題に目を向ける一助となるはずです。
選挙年齢の18歳への引き下げについて散々指摘されていた、政治知識と意欲の不足をカバーし得る内容になっています。文科省の配布している副教材、『私たちが拓く日本の未来』に目を通してみました。教員用、生徒用ともに百数ページにわたる長い教科書です。教員用には指導方法の例が綿密に記されており、中には事前準備を必要とするディベートや模擬選挙といった新しい試みも登場します。まさに大学のゼミのように、生徒たちが大机を囲んで議論する姿が想像できます。個人的には、大学以降で特に重要となる、自分の意見を持つ、ためらわずに発表できるといった力を養うことも期待しています。
ただし、教員にとっても学生にとっても難しい授業になるな、というのが率直な感想です。例えばディベートは相当の事前準備と生徒の積極的な参加がなくては成立しにくいものです。また選挙権を得る18歳といえば、受験勉強が本格化する時期。受験と両立するにはかなりヘビーな内容に思えます。教員についても同じで、「実践的な教育活動を行うに当たっての留意点」の項では、教員が中立性を保つべきことが記されています。生徒に意見を聞かれた場合はどう答えればよいのか、議論を促すためにヒントを出すのはどうなのか。難しい立ち回りが求められます。
新しい政治の授業は、受験勉強一辺倒になりがちな高校での学習を大きく変えようとするものです。選挙だけでなく、高校から大学までを含んだ学習の助けになる可能性を秘めています。しかしながら、それをうまく発揮できるかどうかは結局教員次第。受験勉強を生徒と一緒に戦う進学校の先生は、副教材を読んでどう感じるでしょうか。理念の次は、現場と折り合いをつけることが次の課題だと思います。
<参考記事>
2015年9月30日付 朝日新聞朝刊14版1面『18歳からの一票 実践重視の教材』
<参考資料>
文部科学省ウェブサイト、http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shukensha/1362349.htm、2015年9月30日 23:32ダウンロード