最低限の上の自由

10月1日。年度の後半がスタートしたこの日、2020年4月入社の新卒者の多くは内定式を迎えました。筆者も朝早く新大阪駅を出て新幹線で東京へ。駅のホームには黒のスーツに白いYシャツを着た内定者らしき人がたくさんいて、皆一様に緊張した面持ちでした。

内定式で同期と初めて顔を合わせた筆者は、人事課長より1人ひとり内定書を受け取り業務説明を受ける中で「あと半年で社会人になるのか」と緊張や期待の思いが胸にこみあげてきました。

ここ数年、企業の採用活動の姿は大きく変化しています。従来の「年功序列」や「新卒一括採用」といった言葉はもはや時代遅れ。社会人になってから複数の会社を渡り歩く人も珍しくなく、大学を卒業したのちに就職までブランクがある人もいます。また、4月採用に限らず「夏採用」や10月採用など会社の門をたたく時期も多様になりました。世界の自動車メーカーのトップにいるトヨタ自動車は、中途採用の数を全体の半分程度に引き上げることになりました。

一方、働き方も多様化し、フレックス制や変形労働時間制といった言葉を聞く機会が増えましたし、男性の育休推奨や在宅勤務など、少し前までは全くメジャーではなかった働き方が増えています。

そんな中、先日三井住友銀行が本店勤務の職員を対象に、スーツ以外での勤務を認めることになりました。制度開始の日、さっそく従業員はポロシャツやTシャツ、チノパンなど思い思いの服装で出勤する様子がテレビで報道されていました。お堅い企業というイメージのある銀行では初めての試みで、固定観念にとらわれずに柔軟な発想を引き出す狙いがあるそうです。

まだ社会の荒波にもまれたことのない、いち大学生が物申すのは気が引けるのですが、「服装で発想が大きく左右されることってあるの?」と率直に感じました。というか、発想云々以前に仕事をする際にはきちんとした身なりが必要だと思います。確かにサラリーマンが仕事をする際にスーツを着なければならないなんていう強制力のある決まりはどこにもありません。でも、それは基本的なマナーの上に成り立っているはずです。筆者に経験はありませんが、もし真剣な思いで会社に就活で出向いた際に相手の職員にTシャツで対応されたら正直困惑します。ちなみに、筆者の就職先では春の1次試験から真夏の3次試験まで、受験生に対応する職員はみなスーツを着用し、男性は長袖のYシャツにネクタイをしっかり締めていました(もちろん、我々受験生も終始ネクタイ・ジャケット着用でした)。

夏場の40度間近の日までネクタイを締めてジャケットを羽織る必要なんてないと思いますが、最低限の服装というものがあるはずなのに、と思います。最近のトレンドは「自由」ですが、冠婚葬祭でも、偉い人にあいさつする際にも、結婚の申し出を相手の家族にする際にも、日々の生活で身なりをきちんとする機会は多いです。それらはたとえどんなに「自由」を謳っても揺らぐことはないはずです。

「○○なんて時代遅れ」とよく言われます。でも、それは何にでも通じる魔法の言葉ではないはずです。社会に出れば、こうした「時代遅れ」な考えが変わるのかもしれませんが。

参考記事:

3日付 日本経済新聞朝刊1面「トヨタ、新卒の5割中途に」

参考資料:

朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/ASM6V4FGCM6VULFA013.html