英語から考える言語の多様性

先日、美術館でアルバイトしていたときのことです。一人の外国人観光客に声を掛けられました。日本語で何か尋ねようとして言葉を詰まらせる彼女を見て、私はとっさに英語で応対しようとしました。すると、彼女はスマートフォンで中国語を日本語に翻訳して私たちに見せたのです。翻訳アプリを通じて、私たちは難なく会話することができました。

英語が自然と口から出たのは、英語を国際共通語だと認識していたからでしょう。たしかに、様々な地域の人々とコミュニケーションを図る際に、英語はとても便利なツールです。しかし、非母語話者同士で必ずしも英語を使用する必要はないのです。また、”Englishes”と呼ばれることもあるように、国際共通語としての英語は多様に存在しています。そうとは言え、学校で学んだ英語がどこでも通用するように感じてしまうものです。

私は最近ナイジェリアの曲を聴いています。ナイジェリアの公用語は英語であり、ヒットチャートに上がる曲の歌詞は英語で書かれています。けれど、歌詞の中には、見慣れない単語やフレーズが見られます。例えば、Rugarの”Asiwaju”という曲。”See, omo na me dey lead, Asiwaju”という歌詞には、英語に加え、アフリカ現地語のヨルバ語が見られるのです。次の”I be old man, no go dey call me Gen-Z”という歌詞は、一見すると私たちが普段慣れ親しんでいる英語のように思えます。しかし、文法や単語で引っかかる部分があるのではなのでしょうか。実は、ナイジェリア英語は、英語を基盤としながらも、現地語と接触して混淆してできた新たな言語、ピジン・クレオール語なのです。500をも超える言語が話されているナイジェリアにおいて、母語を異にする人々の相互理解にとって欠かせないものです。このようなリンガ・フランカは、話し手たちの母語になることもあるのです。

ナイジェリアの曲の独特なビートに魅了されると同時に、言語というものの深さについて考えさせられます。言語の多様性は不便に感じられることもありますが、その不便さこそが文化を醸成させるのです。学校で学ぶ「スタンダード」な英語が絶対的なものだとは限らないですし、様々な地域の人々と対話する際に必ずしも英語を使う必要もないのです。

私は秋からスペインのバレンシアに留学する予定です。スペインでは、カスティーリャ語(スペイン語)が国家公用語とされています。その一方で、固有の公用語を持つ自治州もあります。カタルーニャやバレンシア、バスクなどです。筆者は、カスティーリャ語だけでなく、現地の言葉であるバレンシア語も積極的に学んでいきたいと思います。