大規模緩和政策 どうして今修正?

12月20日、日銀はこれまでの大規模緩和策を修正し、国債の長期金利の上限を0.25%程度から0.5%へ引き上げることを決定しました。外国で留学生活を送っている筆者は、このニュースを聞き狂喜したと言っても過言ではないほどに喜びました。金利の引き上げは、円高を招きます。日本円で受け取った奨学金を韓国の通貨に替えて生活している筆者の場合、円が強いほど得なのです。

留学生活を始めた直後の3月、突如ウォンに対する円レートが暴落し、それからは日本円を韓国ウォンに両替すると相当目減りしてしまう状況が続いていました。日銀の黒田総裁が大規模緩和を少なくとも数年は続けると公言していたため、留学が終わるまで円安が続くことを覚悟していたのですが、思っていたよりも早く金利の引き上げが決まり安堵しています。

海外で生活している日本人にとって、金利の引き上げと円高の動きは短期的に見て明るいニュースでした。しかし、実質的な利上げが日本経済にとって必ずしもプラスだとは言い切れません。日銀はどうして頑なに続けてきた大規模緩和を見直したのでしょう。経済については無知である筆者なりに、考えてみたいと思います。

大規模緩和は、第2次安倍政権時にアベノミクスの重要な政策の一つとしてスタートしました。日本は、バブル崩壊以降デフレに悩まされてきました。デフレというのは簡単に言うと市場に出回るお金の量が減り、物価が下がる現象です。値下がりは一見いいことのようですが、企業の業績が悪化すれば、賃金にも悪影響を与えます。消費は落ち込み、不況に陥ります。商品自体は変わっていないのに、値段が下がるということは、相対的に通貨の価値が高くなっていることを意味します。逆に言うと、通貨の価値が下がればデフレと経済停滞は止められる理屈です。政府と日銀は市場にお金を大量に投入することで円安を誘導し、デフレの解消を目指しました。

大規模緩和政策の当初の目標は、2%のインフレ率を達成することでした。マイナスに落ち込むこともあった物価水準が多少は上向きに転じ、経済成長は見られたものの、2%という目標は10年が過ぎても達成されませんでした。それが今年、ようやく達成されましたが、想定していた形での実現ではありません。本来、インフレ(=物価上昇)が起こると、物価の上昇に伴う売り上げ増が企業の業績を押し上げ、賃金や消費が増え、景気が良くなることが期待できます。しかし、今回のインフレはロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇や、アメリカの急激な利上げに伴う円安での輸入物価高など、外部的な要因によって達成されました。その結果、賃金は上がっていないのに物価だけ上がるという厄介な状況に陥ってしまったのです。

急激な円安に伴う国民生活への打撃にも関わらず、日銀は大規模緩和政策を転換しようとしませんでした。ここで金利を上げると、再びデフレに陥り、日本経済がさらに苦しくなることが予想されたからです。とはいえ、国民の生活が苦しくなっているにも関わらず何も手を打たなければ、当然不満が噴出します。岸田政権の支持率にも影響を及ぼし始めました。様々な要素が関わる支持率ですが、生活に直結する物価の変動は国民にとって今の政権にこのまま任せて良いのか判断する一つの指標になります。

岸田首相としては、日銀に金融緩和を修正させることで物価を抑え込む思惑があったとみられます。今秋に、政府と日銀は円安の進行を食い止めようと円を買いドルを売る市場介入を行いましたが、根本的な解決には至らず、政策の修正に追い込まれました。

今回の利上げは、短期的には円高を招き、輸入物価が下がるため、消費を促進するメリットがあります。その反面、先に述べた通り、物価が下がることで企業活動が停滞し、深刻な不況に逆戻りする可能性もあります。また、低金利に甘えて大量に発行している国債の金利負担が重くなるリスクもあります。

経済は取っつきにくい印象を持ちますが、私たちの暮らしに直接影響を及ぼす身近な問題でもあります。日本経済が重要な局面を迎える今、私たちも経済運営や金融政策について考えてみる必要があると思います。

 

参考

12月24日付 日本経済新聞「国債費、金利上昇なら膨張リスク」

12月23日付 日本経済新聞「日銀が金融緩和修正の理由 金利抑え込み、弊害大きく」

12月22日付 日本経済新聞「日銀の金融緩和修正、エコノミストに聞く経済への影響」

12月21日付 朝日新聞デジタル「(時時刻刻)黒田日銀、迫られた修正 円安・物価高…首相と面会後に」

12月20日付 日本経済新聞「日銀が緩和縮小、長期金利の上限0.5%に 事実上の利上げ」

12月19日付 日本経済新聞「異次元緩和が終わる日 市場は禁断症状に耐えうるか」