下町の映画館・ミニシアター シネコンにはない強みとは?

ひまわりはウクライナの国の花である。1970年に作成されたイタリア映画「ひまわり」は、第2次世界大戦中、戦争で引き裂かれた男女の運命を描いた作品で、「恋愛映画の金字塔」と評される。映画の中盤、兵士としてソ連前線に送られ消息を絶ったアントニオの手掛かりを求めて、妻のジョバンナがひまわり畑を訪れる場面がある。このひまわりは兵士や市民たちの墓標であり、その光景は戦争の悲劇の象徴とされる。撮影地は現在のウクライナだ。

昨今のウクライナ情勢で、再び注目を浴びているこの映画。私もずっと見ようと思っていた。ただ、6月10日時点で上映しているシネマはわずかで福岡県、佐賀県、長崎県はゼロ。かろうじて熊本県に一館あった。

熊本市の繁華街・下通。アーケード商店街「サンロード新市街」にその映画館はある。創業111年のDenkikan。家業を守る、4代目の代表取締役・窪寺洋一さんに「ひまわり」の上映とミニシネマの現状について伺った。

アーケード商店街の中にあるDenkikan(10日、熊本市中央区、筆者撮影)

 

◎ミニシアターでの「ひまわり」の上映

ミニシアターとは、映画の大手配給会社の直接の影響下にない独立した映画館を指す。対義語は、シネマコンプレックス(シネコン)で、例えば配給会社東宝系のTOHOシネマズや、松竹系のMOVIXなどがある。5~6つ以上のスクリーンをもつ大規模映画館が多い。

ミニシアターは比較的規模の小さい映画館が中心で、スクリーンがひとつだけの施設も多い。映画館では予め数か月先の分まで上映作品をブッキング(予約)することが通常で、スクリーンを複数持たない映画館では、上映期間を柔軟に変えることは難しい。スクリーンが3つあるDenkikanでは4月29日から「ひまわり」の上映を始めたが、反響が大きかったことから期間を延長し、今でも上映を続けている。「こんなに長く続くと思わなかった」と窪寺さんは言う。

この作品は1971年にアカデミー賞を受賞するなど、昨今のウクライナ情勢に関わらずもともと知名度が高かった。そのため、半世紀前に見たこの作品をなつかしんで来館する高齢者が多いらしい。

「ひまわり」の来場者に限らず、基本的にDenkikanの客層のメインは高齢者だ。確かに、私が訪れた6月10日(金)の午前中もお年寄りの姿が目立った。その理由について尋ねると、窪寺さんは「情報発信」を挙げてくれた。Denkikanでは毎日、熊本県の地元紙・熊本日日新聞にその日の作品と上映時刻を伝える広告を出している。お金がかかるため、公告を出すことをシネコンはあまりやろうとしない。しかし、インターネットを使いこなせず、映画館の公式HPを見ることができない高齢者が一定数いるので続けている。「ミニシネマは地元紙と仲がいいことが多いですよ」

 

◎フィルムからデジタルへの転換

2010年代前半は映画館にとって激動の時期だった。35mmフィルムが、デジタルシネマパッケージ(DCP)に置き換わったのだ。馴染みのあるフィルム映画は、画像が記録されたフィルムの後ろから光を当てながらコマ送りする。原理的には、ノートの隅に書くパラパラ漫画と似ている。24枚の静止画が1秒に相当するため、膨大なコマ数が必要となる。配給会社から各映画館に届けられるのだが、あまりにもかさ張ることから一つの映画を8つくらいに分けて郵送される。各映画館はそれらをつなぎ合わせる編集作業を迫られる。また、保管場所も必要だ。

その点、デジタルは極めて効率的だ。配給会社からのデータの移動は簡単だし、その保管場所にも困らない。このほか、窪寺さんはメリットとして、「ドキュメンタリーが撮影しやすくなったこと」を挙げる。フィルム撮影の場合は、つなぎ合わせに手間取るので失敗が許されない。撮影にはかなりの覚悟と気合が必要だ。それが映画のデジタル化によって大きく変わった。さまざまな映像が求められるドキュメンタリーにうってつけの技術である。ミニシアターでは社会問題を扱ったドキュメンタリー映画を上映することが多く、デジタル化に伴ってそうした作品の数が増えたと窪寺さんは感じている。

35㎜フィルム時代に作られた映画は世界に山ほどあるが、「ひまわり」のような人気作品でないとわざわざデジタル版にリメイクされない。デジタル化が進む中でも一部のミニシネマにはフィルム作品用の映写機がまだ残されており、Denkikanも毎年、終戦の日には戦争に関するフィルム映画を上映している。

 

シネコンは大衆を相手にせざるを得ない以上、上映作品も集める客層も、効率を重視したうえで決めることになる。その網の目からこぼれ落ちた分野をターゲットにするミニシアターには、大きな価値があると取材を通して思った。

 

参考記事:

2022年5月17日 朝日新聞デジタル「ウクライナを支援、28日に映画『ひまわり』上映会 富士宮市

参考資料:

映画『ひまわり 50周年HDレストア版』公式サイト

NHKかごしまWEB特集 名作映画「ひまわりに隠された”国家のうそ”