加速するタイパ重視の若者

「生で先生の話を聞くとゆっくりすぎてイライラする」

先月18日の日経新聞コラム「春秋」に載っていた学生の言葉です。コロナ禍で当たり前になったリモート講義の動画を2倍速で聞いていたため、対面授業に戻ってからというもの、授業のペースが遅く感じるのだとか。

現在、コストパフォーマンスならぬ、タイムパフォーマンス(通称タイパ)が、若者の間で蔓延しているというのです。

10日の朝日新聞朝刊には、倍速視聴は「現代を生き抜く戦略」であるとも述べられています。経験がある人は20~69歳で34.4%、20代だけでは49.1%に上るそうです。筆者の周囲でも、授業動画を1.75〜2倍速で聞いている学生をちらほら目にします。

タイパの試聴を重視した例はいくつもあります。映画を10分程度に無断で編集した「ファスト映画」、興味のないシーンをスキップ再生する「10秒飛ばし」、さらには連続ドラマで途中のエピソードを飛ばす「話飛ばし」などが挙げられていました。

「話飛ばし」するくらいなら見るのを辞めたら…と記事を読みながら突っ込みを入れそうになりました。

しかし、思い返すと筆者もタイパ中心の行動をとっていました。例えば、好きな音楽を聴く時です。普段はイントロまで堪能したい派ですが、アルバイト先や大学に到着する間際には、数十秒という短い時間でサビ部分だけを聴いています。筆者が普段使っている音楽配信サービス「LINE MUSIC」には、歌詞のフレーズを選択すると、その部分から音楽を再生してくれる便利な機能があるのです。

「ネトフリ」「U-NEXT」などの動画配信サービスで、夜な夜な視聴する映画を探し回る際も、「今日は何を観ようか」と思いながら気になる映画をスキップ再生。面白そうな場面があれば試しに視聴してみる、そんな行動をとっています。

「ネットフリックス」のスクリーンショット  速度は0.5倍から1.5倍の5パターンある。

「U-NEXT」のスクリーンショット 速度は0.6倍から1.8倍の4パターンある。1.8倍でも耳をそばたてれば言葉を鮮明に聞き取ることができる。

わかりやすさを求め、失敗や無駄を嫌う若者の風潮や、見たいものだけを見たい、不快なシーンやドキドキする展開を嫌う「快適主義」といった心理が関わっているそうです。

そういえば、ある新聞社の採用面接で、「あなた達は何世代?」と尋ねられたことがありました。その時は「良くも悪くも人の評価を気にしすぎる世代」と回答。外食へ行くのも美容院を選ぶのも、口コミで他人の評価を事前にリサーチするからです。面接役の3人が「ああ〜」と大きく頷いてくれたことを今でも覚えています。「タイムパフォーマンスを重視する世代」も恐らく正解でしょう。両者には共通点があるように思えます。それは「便利さ」です。便利なコンテンツが普及するあまり、一分一秒でも無駄を省きたいという感情が湧くのかもしれません。

私たちの世代では、TikTokやインスタグラムのストーリーなど、短時間でみられる短尺コンテンツが流行しています。スマートフォンの普及により、電車内で小説や新聞を読む若者はすっかりいなくなりました。そのせいか、長い文章を読むことに苦痛を覚える若者も少なくありません。

「作品を味わうには時間をかけないと」

先月30日の読売新聞コラム「編集手帳」は、ファスト映画に釘を刺しています。この言葉が全てを象徴しているように思えました。行間を読んだり、余韻に浸ったり・・・たまには時間をかけて感傷に耽ることも必要なのかもしれません。大学生には自由な時間が多くあります。残りの学生生活、自分を見つめ直そうと思います。

 

参考記事:

10日付 朝日新聞朝刊 埼玉13版 28面 「倍速視聴 現代を生き抜く戦略」

5月18日 日経新聞朝刊 埼玉 1面 春秋

5月30日 読売新聞朝刊 埼玉 1面 編集手帳