再エネの矛盾? 蓄電池の話題を3紙比較

余剰電力への対応策として蓄電池の活用が注目されています。10日、11日の3紙を比較すると、読者へ伝える内容に違いが見られます。

今回の蓄電池活用の背景は、再生可能エネルギーの普及と深い関係があります。2011年の東日本大震災を機に、日本では原子力発電の代わりとなる再生可能エネルギーの導入に力を入れるようになりました。50年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル2050」にむけ、導入にさらに拍車がかかっています。太陽光発電や水力発電、風力発電に代表される再生可能エネルギーの施設や装置は身の回りにあふれるようになりました。筆者の通う九州大学伊都キャンパスにも風車が数台立っています。

九州大学伊都キャンパスに立つ風車。風が強いためか、全機がフル稼働のようだ。(11日筆者撮影)

未来のエネルギーを担うと期待される再生可能エネルギーですが、発電量が天候に左右されやすい発電上の特徴と、簡単に貯めることができない電気エネルギーの性格が課題となります。

3月22日、エネルギー庁が東日本大震災による電力需給のひっ迫の経験から12年に制定して以来初の「電力需給ひっ迫警報」を発令しました。電力の需要と供給のバランスが崩れると波数が乱れて電気が正常に供給できず、最終的に停電を引き起こす可能性があります。大規模停電を防ぐことがこの警報の目的です。今回は16日に起こった地震により発電所が停止したための供給量の不足に、予想以上の寒さによる電力需要の拡大が加わり発令に追い込まれました。

一方で「出力制御」の課題も近年は注目されます。大規模停電は供給量が少ないだけでなく、多すぎることによっても引き起こされます。再生可能エネルギーによる発電量の急増により電気が余る現象が起きているのです。需給のバランスを保つために、太陽光発電からの電力の受け入れを一時停止する「出力制御」は再生可能エネルギーの発電量が不安定なうえ電気を貯めることができないことが要因です。今年4,5月に九州は計24日、東北、四国でも10日間を超える出力制御が行われるなど、全国に広がっています。また、太陽光発電が普及したのですが、年間発電量の約5%の電気が無駄になるとの見通しが語られています。今の状況では「再生可能エネルギーを導入しよう」と必ずしも積極的に促せないのです。

ここで注目すべきが10日、11日の各社紙面に相次いで取り上げられた蓄電池です。九州電力や三菱商事、NTTグループが蓄電池を活用した新事業を打ち出したことから、各紙が取り上げたものです。余った電気を貯めることのできる蓄電池の利用が全国に広がれば、出力制御を減らせる可能性も高まります。さらに出力制御を恐れなくてよい状況は、再生可能エネルギーの拡大を促進することにもつながるでしょう。

こうしたなかで10日の日経新聞は、貯めた電力を売買する市場に着目し、新たな事業展開を紹介しました。蓄電池のコストや共同実施企業の分担なども詳細に記載し、他国の成功事例を取り上げていました。一方、11日の朝日新聞は3月の電力需給ひっ迫警報に焦点を当て、電力の安定供給と蓄電池利用による採算にも言及しています。

異彩を放っていたのは11日の読売新聞です。出力制御の回数をグラフで表して、現状を詳しく述べ、朝日新聞と同じくコスト面にも言及していました。他紙と異なったのは電力会社が電気の使用量を減らした家庭にポイントを付与するなどの節電を促す取り組みを紹介したこと。出力制御につながる蓄電池活用に、私たち読者は直接かかわることができませんが、電力利用の面で3月に起きたようなひっ迫警報を回避することに寄与できるのです。読者層を意識した各紙の紙面づくりの違いがよく表れた話題でした。

左から順に朝日、日経、読売の紙面。掲載ページや掲載日、記事の大きさからは、重要度や緊急性の違いが分かる(11日筆者撮影)

 

参考記事:

10日付 日本経済新聞朝刊(福岡12版)総合2面「再生エネ 大型蓄電池網」

11日付 朝日新聞朝刊(福岡13版)経済9面「余った太陽光発電 蓄電池に」

11日付 読売新聞朝刊(福岡13版)経済8面「蓄電池活用へ共同事業」