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<名越康文さんが語るおすすめ本>『怒らないこと』アルボムッレ・スマナサーラ著

 カウンセラーとして臨床に携わる一方、ソフトな語り口と親しみやすいキャラクターで、テレビやラジオなどのコメンテーターとしても活躍する名越康文さん。精神科医という西洋医学に関わる名越さんが今“ハマっている”のは意外にも仏教に関する本でした。

◆西洋心理学と心へのアプローチが違う初期仏教

 人文学部特認教授を務める京都精華大学のイベントで浄土真宗のお坊様と対談したんです。その時に、お釈迦様の教えを忠実に守っているスリランカの初期仏教の長老、スマナサーラさんが書かれた『怒らないこと』をそのイベントに参加されていた版元の方にいただいたんです。何気なく読み始めたのですが、そこに綴られているのは、今まで私が勉強していた西洋心理学とは全く違った観点から人の心理について書かれていました。
 かんたんに言うと、西洋の心理学は幼年時代にこういうことがあったから、今の状態になるというように、過去の事例から人の心理を分析していったりするのですが、初期仏教の場合はその瞬間、瞬間で人の心理を捉えていく方法論もあるんです。人間が生きていく中で湧き起こる感情に対してどう対応していけばいいか、またどうすれば、ネガティブな感情に振り回されなくなるのかということを具体的に教えてくれているんです。私にとってはまさに目からうろこが落ちる思いでした。

◆押し付けがましさがなく平易な文章『怒らないこと』

 そこに書かれてある具体的な実践方法の一つに、自分で無意識におこなっていたことを意識的に実況中継するというものがあります。例えば掃除をする時も、掃除機の取っ手を持つ、スイッチを入れる、押す、引くというような動作を一つ一つ意識する。そうやって無意識だったものを意識する訓練を重ねていくと、次第に自分の心情もきちんと意識できるようになる。意識できれば、それをコントロールできるようになる、というんです。
 宗教と聞くと、「こうすればあなたは天国にいけます」などと押し付けがましい印象を受けたり、難しい言葉が並んでいたりして、引いてしまう人もいるかもしれません。しかし、初期仏教の教えはお釈迦様が実際に実践して効果があったことを紹介しているんです。この本も、実際に多くの人が教えの通りにやって効果があったから、後はあなたが実践し生活の中で研究してみてください、という客観的なスタンスで、押しつけがましくないんですよ。実際私も1カ月ぐらい実践しているのですが、ネガティブな心に振り回されることが2割以上減ったと思います。しかも、本来はたいへん難しい仏教の教え方が、とても平易な言葉で書かれていて、本の中で一番難しい言葉といえばせいぜい“捏造”です。その言葉の意味さえわかって読み進めれば、ある意味子どもでも理解できると思います。
 ほかにスマナサーラさんの本でおすすめなのは、『出家の覚悟~日本を救う仏教からのアプローチ』(サンガ、2205円)です。曹洞宗のお坊様、南直哉さんとの対談なのですが、人間の精神の成長に一生を捧げた人同士の真剣な語らいは、とても緊張感があって面白いですよ。

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