――それでも、一部の地域では「注油」や「天敵導入」による駆除をしていたようですね。また、戦後しばらくは「誘蛾灯」が使用されていたようですね。
◆日本で普及したのは「誘蛾灯」
注油駆除法は水田に油を散布して油膜をつくり、箒などを使って稲穂を揺すり、害虫を油の上に落とすというもので、九州北部では江戸時代から明治期にかけて広く用いられていました。場所柄、鯨がとれ、鯨油が入手できたので西日本で普及したんです。天敵導入による駆除法はアメリカ・カルフォルニア州で初めて実施されています。柑橘害虫の「イセリアカイガラムシ」を駆除するため、オーストラリアから天敵の「ベダリアテントウ」を輸入し、成功を収めています。日本では明治末に台湾で試験的に実施し、その後、静岡県内の柑橘園で発見された「イセリアカイガラムシ」の駆除に使用しました。
しかし、国内では普及しませんでしたね。天敵となる虫を外から持ち込むために莫大な予算がかかるからです。もっとも、広く使われたのが電気をもちいた誘蛾灯です。明治末に福岡県内で国内初の白熱電灯をもちいた誘蛾灯を導入したことがきっかけで、全国に広く普及しました。昭和10年代には青色蛍光誘蛾灯として実用化されています。しかし、戦後、GHQの意向でアメリカから持ち込んだ新しい殺虫剤のDDTの使用が奨励され、青色蛍光誘蛾灯は使用を中止されてしまい、DDTに代表される有機合成殺虫剤の時代に入っていくんです。
――昔ながらの蚊取り線香などに殺虫成分として使われている「除虫菊」も利用されていたようですね。
◆かつて日本が世界生産の90%
除虫菊は注油駆除剤の延長線上にある殺虫剤として、よく利用されていました。もともと、ロシアのコーカサス地方が原産で、明治中期に農学者がアメリカから種子を輸入し、大日本除虫菊(金鳥)の創始者が和歌山に持ち込んで栽培を始めたんです。昭和初期、日本は世界生産の90%を占める輸出国になっています。
除虫菊は水で溶かして噴霧していきますが、今は、害虫駆除に除虫菊を使っているところはないと思いますよ。この本が出てから農業をやっている人からメールで「害虫駆除に除虫菊を使いたいが、どう使ったらいいのか」なんて問い合わせがありました。