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2009年07月22日

鷲田 清一 大阪大学総長、哲学者 経歴はこちら>>

時代に“添い寝”するのではなく(1/3)

 読売新聞の「読者と記者の日曜便」という欄を愛読している。関西地域しか掲載されないようなので、ちょっと詳しくご紹介する。

 7月19日は次のような文章で始まる――
 <大阪のパチンコ店放火事件、迫る総選挙と、社会部は慌ただしい毎日が続きます。とりわけ大事件が起きた日の締め切り前は、ひっきりなしに鳴る電話をさばきつつ原稿を書く先から「遅い!」「早よ出せ」とデスクたちの怒声が飛び、蜂の巣をつついたような騒ぎです。そんな日々にあって、皆さんのお便りに触れるのは、ふと立ち止まってホッとできる貴重な時間です。>

 この日紹介されたのは、京都のご老人からの手紙。
 地下鉄でも新幹線でもそうだが、車内放送では携帯電話を使わないようにとの注意喚起があるのに、実際に乗務員が注意を促している場面に遭遇したことはない。見て見ぬふりばかりである。たぶんトラブルを怖れてのことだろう。じっさい、ケータイにかぎらず、乗客の傍若無人なふるまいは意外に多い。

 これに対して、手紙は市バスの運転手さんのあっぱれなおこないを紹介している。ケータイで話している乗客には「お客さん、バスの中ですよ」とさりげなく注意、足の不自由な乗客が降車しようと後ろの席から慌てて歩いてきたときは優しい口調で「ゆっくりでいいですよ」。そしてこのひと、市の交通局に運転手さんの名前を記して「何らかの形で評価してあげてください」と書き送った。

 手紙の差出人のこの最後の行為も運転手に劣らず立派、と言葉をはさんだ記者は、最後にこう書く――
 <誰しも叱られてばかりだと気が滅入ります。逆に褒められるとがんばれるもの。敬三さん{手紙の差出人}のような乗客が増えれば、バスのサービスもより向上するかもしれませんね。私だってたまに褒めてくれれば奮起してもっと特ダネが……というのは甘いでしょうか。(甘い)。ハイ。というわけで、今日も教わるところの多いお手紙でした。>

 投書欄ではなく社会面のなかにあるこのコーナー、紙面のなかではちょっと陥没しているように見える。が、投書欄とちがって、記者が読者の意見に応えている。そのほうが、投稿を載せるだけよりかえって「聴いている」と感じられるのは不思議だ。いや、不思議でもなんでもない。言葉が、言いっぱなしではなくて、だれかにたしかに届いているという感触がここにはある。

  →次ページに続く(「きく」には「聞く」「聴く」「訊く」の意)

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