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2010年03月03日

栗田 亘 コラムニスト、元朝日新聞「天声人語」執筆者 経歴はこちら>>

特ダネとリークのむずかしい関係(1/3)

 新聞記者生活ざっと40年。いわゆる特ダネにはほとんど縁がなかった。

 JRがまだ国鉄だった時代、2年ほどこの組織の取材を担当した。そのとき一度だけ、夕刊の1面トップ扱いで特ダネらしきものを書いたことがある。もはや記憶はおぼろだが、国鉄が初めて、主要路線の1つの全列車を1日止め、耐用年数が間近なレールを一斉に取り替える。と、そんな内容だった。

 ダイヤ通りにきちんと列車を走らせる。その点では、明治以来世界に冠たる存在が日本国有鉄道だった。だから、ダイヤに反して運行を終日全面休止するというのは、それなりにニュースではあったのだ。

 国鉄史上初。とはいえ、それほど大したニュースでもない。若かった私も、それは自覚していた。なのに夕刊の1面トップになったのは、テレビも含め他社が報じる前に、記事にしたからである。

 広辞苑で「特種」を引いてみる。
 <新聞などで、その社だけが特に手に入れた記事材料。スクープ>とある。よく使われる「特ダネ」という表記では、出てこない。

 では、説明に補足してある「スクープ」とはどんな意味か。
 <新聞・雑誌・テレビなどの記者が他社を出しぬいて、重大なニュースをつかみ報道すること。また、その記事。特種>
 これが広辞苑の解説だ。

 私の記事は「その社だけが特に手に入れた記事材料」という点ではかろうじて特種の範疇に入れてもらえそうだが、「重大なニュースをつかみ報道する」というスクープの定義に当てはまるかどうか、どうも心許ない。

 他社に先んじて1面トップ、それも朝刊の1面トップを「飾る」のが、私の体験では、特ダネの資格の1つだ。社会面のトップ記事もそれなりに読者の目を引くけれど、1面トップには席を譲る。他紙には見当たらないが、他社を「出し抜」いた「重大なニュース」とまでは言い切れない。それが社会面トップの特ダネであろうか。

 社会面トップを占めながら手放しで特ダネと呼んでもらえない記者は、悔しがって自分の記事を「独自ダネ」と称した。

 独自ダネ。うまい表現である。場合によっては、特ダネより価値が上かもしれない。正真正銘の特ダネであれば、他社は追っかけてニュースにしなければならない。なにしろ、誰が考えても「重大なニュース」なのだから。しかし独自ダネはそうとは限らない。

 具眼の士にとっては「重大なニュース」だけれど、その他大勢から見れば「絶対に報じなければならない」ほどの価値はない。でも、3日、3月あるいは3年を経れば、ああ、あれは時代を先取りしたニュースだったとわかってくる。

  →次ページに続く

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