新聞案内人詳細

新聞案内人

2008年11月14日

歌田 明弘 コラムニスト 経歴はこちら>>

解散予測はなぜはずれたか

 麻生首相は、就任直後に解散するのではないかと総裁選中から言われ、その後も、総選挙の日程予想が繰り返し報道された。しかし、いまもって解散されてはいない。かなりの予想がはずれてしまったことになる。

 もちろん根拠のない報道をしたはずはなく、関係者に取材した結果なされたものなのだろう。
 ただ、衆議院の解散は、結局のところ首相の心ひとつにかかっている。以前のように根回しして解散の日取りが決まったときはともかく、最近は「首相の心しだい」のようだから、当てるのはますますたいへんだ。
 実際は本人が書いていないなどとも言われているようだが、麻生首相自身も「文藝春秋」の論文で、早期の解散の決意と受け取れる文章を公表している。楽天的で自信過剰にさえ見える麻生氏のことだから、自分が首相になって選挙に打って出れば勝てるぐらいのことを思って、そうした原稿を寄稿したのかもしれない。

 しかし、取材も何もせず、首相自身にも定かでないように思えるその心の動きをもっぱら考えてみると、いまもって解散が行なわれていないのは、じつは不思議でも何でもない。

○汚名を残したい首相はいない

 「在任期間最短の首相」などという汚名を残したい政治家はそもそもいるはずがない。
 とりわけ麻生首相は、周囲に推されて首相になったかのような前任の二人とは異なり、四回目の挑戦でようやく首相の座を手に入れている。短期で離職するようなことになるのは極力避けたいはずだ。「選挙の顔」として選ばれたことはわかっていても、勝てる見こみが薄ければ、何か理由があればこれ幸いと総選挙を先延ばしするのは当たり前だ。

 理由が見つからなければ追いこまれて解散ということもありえたが、大恐慌以来ともいわれる金融危機はまさに格好の理由になる。そう簡単に解散しようなどと思うはずはない。
 まわりの政治家たちが、「どのみち1年以内に総選挙ならば支持率が落ちないうちにしたほうがいい」と思うのも、自分たちの選挙が少しでも有利になるのだから自然である。希望的観測でしかないのに、解散ムードを高めようという思惑もあって、「首相もそう思っている」などという根拠のない話をした政治家もいるのではないか。

 つまり、この場合、周囲の政治家を熱心に取材すればするほど、十分想定できる首相の心の動きとはかけ離れた印象が取材者のなかにできていくことになる。

○取材することが目的化していないか

 ネットの時代になって、情報が簡単に手に入るようになったことへの警戒感もあってのことだと思うが、「ジャーナリストは取材することが大事」といったことがかつて以上に強調されるようになったと思う(かつてはそれ以外に情報を手に入れる手段が限られていたので、言うまでもなかった、ということもあるだろう)。そうなってきて私は逆に、「取材がそんなに絶対か」という疑問を感じるようになった。

 取材対象者に悪意はなくても、取材者はその発言に影響される。どんなに客観的になろうとしても、人間どうしのつきあいだからそこには限界もある。より客観的に見ようとしたら、少し離れて見たほうがいいということはないだろうか。
 苦労して貴重な事実を発掘し問題提起する取材活動の重要さはわかるし、それには敬意も感じる。また、新聞社などの新人教育として取材の重要さを強調する必要もあるのだろう。

 しかし、情報操作に利用されやすい「なんとか番」などといった形の密着取材や記者クラブに張りつく取材にかける人力やエネルギーの配分を少し見直して、そのぶん冷静に事態を分析することに力を注いだほうが、より正確で深みのある紙面になるということはないのだろうか。
 少なくとも膨大な時間とエネルギーをかけて同じような情報源を追いまわし記事を書くのは、どう考えても生産的ではないと思う。

  →次の新聞案内人は、コラムニストの栗田亘さんです。17日の掲載です。

◆この記事をブログに

→「この記事をブログに」とは?


※このコラムへのご意見・感想を投稿ください

新聞案内人コラムへ投稿する
すべての投稿を掲載することはできませんのでご了承ください。詳しくは投稿規定をご確認ください。詳しくは投稿規定をご確認ください。※投稿画面が開かない場合はブラウザのCookieが有効になっているかご確認ください。


→新聞案内人コラムへの投稿一覧


歌田 明弘氏のコメント一覧

出来事ファイル2009

ご購読のお申し込み

ブログパーツ