2008年11月07日
| 森信 茂樹 | 中央大学法科大学院教授 | 経歴はこちら>> |
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10月30日、政府は追加経済対策を発表した。いまだ詳細は明らかではないものの、2兆円規模の給付金の支給を行う一方で、消費税の将来的な引き上げまでもが内容に入ったことをどう評価するか、簡単ではない。以下、各社の報道ぶりを参考にしながら私の論点を述べてみたい。
まず、総額2兆円の給付金の支給である。当初予定の定額減税が、歳入レベルを落として政府の規模を小さくするのに対し、給付金は歳出なので、政府の規模は変わらない。同様な政策としてこれまで公共事業が多用されたが、小泉内閣以降は効果が少なく無駄が多いとなり政策メニューから落ちてしまった。我が国の中期的に目指すところが、「中福祉・中負担」であることを前提にすると、歳入のレベルを落とす減税を回避したことは評価できる。
問題はその内容である。給付対象を中低所得者に限定するかどうかが議論になっているが、最大の理由は、個人事業者の所得捕捉が十分でなく(いわゆるクロヨン)、誰が低所得者か正確にはわからないということだ。正確な所得捕捉のためには、納税者番号制度の導入が必須である。今後も「給付付き税額控除」の導入など、税と社会保障の一体化が政策課題となる中では、納税者番号の議論は避けて通れない。社会保障番号制の導入と併せて議論を開始すべきだ。このことに言及する報道は、今のところ少ない。
2番目に、経済対策の5兆円規模(真水部分)の財源についてである。今のところ、「赤字国債は出さない、埋蔵金で」ということになっている。埋蔵金の問題点については、何度もこの欄で取り上げてきたが、今回ここで問題にしたいのは、あれほど埋蔵金はないと言っていたのに数兆円規模で存在を認め財源化した財務省の説明責任である。さらには、あっさり埋蔵金を容認した財政審議会の在り方も問題だろう。また、赤字国債ではないが建設国債の発行も問題であることはこれから述べる。
3番目に、道路特定財源の一般財源化について、不明瞭な点が多々ある。今回、09年度予算として特定財源から地方へ1兆円の支給を行うということも盛り込まれた。ここまでは納得できるとしても、その結果不足する道路建設費のための財源は、建設国債を発行して賄うという。これまで特定財源制度の下で税金という「真水」を財源としてきた道路建設が、建設国債ということに振り替われば、それこそ「歯止めない無駄な道路建設」につながる。一般財源化したことの意味は全くなくなるのである。この裏に、公共事業を核とした我が国の政官業の岩盤があることはかつて指摘した。
一般財源化とは、「道路建設という優先度の低い政策を縮小し、より優先度の高い社会福祉に財源を向ける」ことを意味している。これを骨抜きにするような与党の意思決定は厳しく追及されなければならない。
最後に3年後に消費税を引き上げるという総理の発言をどう評価するのか。経済対策決定後、タイミングを合わせたかのように社会保障国民会議の試算が公表された(5日朝刊)。2015年度に基礎年金を社会保険方式で維持した場合の追加財源は、消費税率換算で年金制度2分の1税方式など2%、医療・介護の充実として1%、少子化対策の充実として0.4-0.6%、合計3.3%-3.5%の引き上げが必要となっている。具体的な社会保障の中身や選択肢は示されていないが、この数字を材料として今後の抜本的税制改革・工程表作りの議論が進んでいく。今回(経済対策としての効果は減じられるものの)、とにもかくにも選挙を控えたこの時期に与党の責任者が消費税の引き上げ発言をしたことは、好意的にとらえたい。
この点10月31日の各社の社説を見ると
日経は、「単なる増税だけではなく、それと合わせた年金など社会保障改革の姿が示されなければ国民の安心につながらない。ばらまき批判をかわすだけの『言い訳』で終わらせてはならない。」とし、
朝日は、「恐れず負担増を語ったのは歓迎だが、与党内の決着は年末の税制論議に先送りされた。」とし、
読売は、「『日本経済は全治3年』という状況を脱し、こうした責任ある政策を実行していくためには、やはり安定した政治の枠組みづくりが肝要だ。」となっており、
評価が微妙に異なっているが、否定的な論調はなかった。
追加経済対策を、中福祉・中負担という我が国の目指す方向と整合性を取って考えるならば、歳出の中身を将来の社会保障につなげるものにすべきだろう。その点で、介護報酬の引き上げが入っているのは、賛成である。不足する勤務医へのインセンティブ供与策等があればもっとよかったかもしれない。