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2008年10月12日

森信 茂樹 中央大学法科大学院教授 経歴はこちら>>

「無責任」の継承-小泉改革から麻生政権、民主党まで

 小泉元首相が引退表明したが、小泉構造改革の評価に関する3社の社説や報道ぶりを比較することは興味深い。

 引退表明翌日(9月27日)の社説(朝日「あの熱狂はすでに遠く」日経「小泉劇場の幕切れ」読売「構造改革後が問われている」)に加えて、朝日の経済面の記事「小泉改革 光と影残す 経済再生 格差は拡大」を読むと、朝日以外の2社の経済面における評価は必ずしも明確なものではなく、今後の検証が期待される。

 私は次のように考えている。不良債権処理、郵政民営化、小さな政府、テレポリティクス等小泉構造改革を象徴するものは数多いが、経済政策面では、「消費税を引き上げずに公共事業費・社会保障費削減による財政再建路線」を貫いたことが小泉経済政策の中心だ。その最終仕上げが、「骨太方針06」である。これは、2011年度の基礎的収支の黒字化、そのために社会保障費を自然増から毎年2200億円削減すること等の歳出削減を決めたものである。そして、この方針の背後には、「金融政策を中心に名目成長率を引き上げていけば、2011年度までは消費税の引き上げなくして基礎的収支の黒字化は達成できる」という、いわゆる上げ潮派の考え方がある。

  ○本質みえる小泉元首相の発言

 実は、小泉元首相は、骨太06を決定する経済財政諮問会議できわめて興味深いことを述べている。

 (小泉議長)(私が)消費税を上げないのは無責任だ、と言っているが・・現実に、私の言っているとおりになっている。・・歳出削減をどんどん切り詰めていけば、やめてほしいという声が出てくる。増税をしてもいいから必要な施策をやってくれという状況になってくるまで、歳出を徹底的にカットしないといけない。そうすると消費税の増税幅も小さくなってくる。 これから、歳出削減というのは楽ではないことがわかってくるだろう。今はまだ分かっていない。歳出削減の方が楽だと思っている。・・歳出削減を徹底していくと、もう増税の方がいいという議論になってくる。ヨーロッパを見ると消費税は10%以上、ドイツは19%、与野党が反対、反対と言っていたのが一緒になった。みんな10%以上である。野党が提案するようになっている。 (2006年6月22 日 経済財政諮問会議議事要旨)

 私は、この発言の中に小泉改革の本質(あるいは二面性)が表れていると思う。消費税引き上げを封じたことで歳出削減・財政再建、ひいては構造改革もが進んだことは紛れもない事実で、評価に値する。一方、首相を退陣するまで、国民の痛みを認識しながら将来に向けての責任ある対応(消費税引き上げという苦い選択)をとらず後任者に放り投げたことについては、首相として無責任だと考える。そして、この無責任な対応が、その後の内閣に引き継がれ、さらには民主党の政策にも反映されていくところに今日の政治状況がある。

○「埋蔵金」頼みと財源不明

 麻生政権は、小泉構造改革路線の修正と言いながら、2011年度のプライマリーバランス路線は(今のところ)継承しつつ、定額減税等の経済対策や公的年金の国庫負担引き上げは行う、後期高齢者医療保険制度は見直すと言う。結果として、財源は、もともと上げ潮派が苦し紛れに考え出した「埋蔵金」という無責任なものに頼らざるを得ないというパラドクスに落ち込んでいる。

 一方の民主党はもっとバラまきで財源不明の公約内容となっている。民主党が小泉路線を否定するというならば、国民に対して恒久的な財源を用意しつつ社会保障制度を安定させるという政策になるのが本来の姿のはずだ。

 選挙を前にして苦い話をすることの難しさは理解できるものの、社会保障を維持するためには早晩増税やむなし、と考えている有権者は選択肢を奪われてしまった。彼らは一体どの党に投票すればいいのであろうか。

 最後に、埋蔵金については、9月29日の朝日新聞朝刊が論点を整理していた。もともと自民党内の抗争(財政再建派が上げ潮派を批判するツール)から出た埋蔵金なるものが、今や民主党の選挙公約に明記され、麻生政権もひそかにそれに期待し、財務省がこれに答えるという構図は、日本政治のブラックボックス、あえていえば恥部のような気がする。なぜこのようなことになるのか、政と官の関係という観点から、政治論としても分析してほしい。

 →次の新聞案内人は、田中早苗さんです。14日の掲載です。

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