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2008年10月14日

田中 早苗 弁護士 経歴はこちら>>

国の情報は国民のものである

 これは、日弁連の調査で、1995年にスウェーデンを訪問したときによく聞いた言葉だ。「国は国民の税金で様々な情報を得る。だから、国の情報は国民のものだ」。スウェーデンの公務員は秘密法で定められた秘密事項(機密情報を除く)でさえも報道機関に情報を提供する権利があり、情報提供の事実は公権力から探索されることはない。他方、日本の公務員は情報開示に消極的だ。農林水産省の汚染米しかり、社会保険庁の年金問題しかりである。

○「沖縄密約文書」から連なる秘密主義

 2日、防衛省は、情報本部所属の1等空佐を懲戒免職処分にしたと発表した。読売新聞が2005年5月、中国の潜水艦が南シナ海を潜航中に火災とみられる事故を起こし、航行不能になったと報じ、1佐が事故の情報を「防衛秘密」と知りながら部外者に漏らしたことを認めたので処分したのだ。

 しかし、潜水艦は浮上して曳航されており、いずれは周囲の船舶に発見される可能性もあり、「秘密」とは言いづらい。最高裁は77年、国家公務員法の「秘密」とは「実質的に秘密として保護するに値すると認められるもので、国家機関が形式的に指定しただけでは足りない」と判示している。

 したがって、1佐は自衛隊法違反(秘密漏洩)容疑で東京地検に書類送検されているが、今回、起訴しても「防衛秘密」に該当しないと裁判で判断される可能性も大きい。検察は起訴猶予にする見通し(毎日社説4日)で、防衛省は、それを恐れ、起訴猶予前に省内処分に踏み切ったのではあるまいか。

 大石泰彦・青山学院大教授は「防衛省は一連の報道後であっても、公式には中国の潜水艦が火災を起こした事実を認めていない」(読売3日)と述べているが、別のニュースでも「そこまで秘匿するのか」と驚いたことがあった。

 1971年の沖縄返還協定に伴う財政負担をめぐる日米の密約文書の件である。密約文書は2000年以降に米国立公文書館で見つかっているし、吉野文六・元外務省アメリカ局長が06年、その存在を証言している。それにもかかわらず、ジャーナリストらの密約文書の公開請求に対し、外務、財務両省は9月2日付で「該当する文書は保有していない」として非開示を決定したのだ。

 また、今回の事件で軍事ジャーナリスト・清谷信一さんが「防衛省の情報管理は事なかれ主義で、とりあえず秘密扱いにしようという傾向がある。民主主義国家では、自衛官は秘密にあたる情報以外、自由に考えを表明してよいはず…」と述べている(読売3日)。確かに、防衛省は極端な秘密主義だ。

 読売新聞の飯塚恵子記者は、05年3月、イラクを取材している。英軍の保護のもと、つまり、民間邦人が得られる最大限の警備と安全を確保したうえでの取材にもかかわらず、サマワの自衛隊宿営地の取材が拒否された。

○不可解な自衛隊の「イラク取材拒否」

 この時期、自衛隊を守っていたオランダ軍が、英軍へ権限委譲され、太田清彦・第5次イラク復興支援派遣群長に、オーストラリアのテレビ局から質問がなされた。「オランダ軍撤収に伴い、わが国政府はイラクへの部隊増派を決めた。非常に不評な決定だ。日本の部隊を守り、戦い、死ぬことすらあるかもしれない任務のためにだ。その国のテレビ局に、貴国の部隊の活動状況を公開しないのはいったいなぜなのか」と…(新聞研究№646)。

 06年、ふたたび飯塚記者は、英軍の保護のもと、サマワでの陸自の活動について取材を申し入れた。いったん認められたものの、取材当日の朝、一転不許可が言い渡される。この急展開に、英陸軍高官は「部隊は普通、本国に活動の様子を報道されたいものだ。それが士気高揚につながり、国益にも資する。理解できない」と憤ったという(新聞研究№661)。

 イラクでの2年半にわたる陸自の活動は、04年4月以降、日本人記者による直接取材がないまま、06年6月20日、撤収命令が出た。活動を知らせるのは防衛省のホームページなどだけだ。

 しかし、それは「情報」であって権力への監視機能を果たすジャーナリストの目を通した「報道」ではない。官製情報だけで莫大な税金をイラクの復興支援に使うことが決められていく。守屋前防衛事務次官の収賄など引き合いに出すまでもなく、防衛省の極端な秘密主義を何とかしなければならない。

 しかし、今回の事件で、読売(3日)、朝日(4日)の社説はいずれも日米の情報協力を進めるうえで、米国に配慮した“見せしめ”的な処分だったとの見方を示している。今後、省内の公務員は萎縮し、ますます秘密主義は助長されるだろう。防衛省の秘密主義を乗り越え、私達の国民の知る権利に資するよう、メディアの取材に期待したい。

  →次の新聞案内人は島脩さんです。16日の掲載です。

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