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2008年07月02日

水木 楊 作家、元日本経済新聞論説主幹 経歴はこちら>>

コラム記者と作家の文章術

 みなさん、「5W1H」という言葉をご存知でしょうか。多少、文章術について関心のある方ならご存知の言葉なのですが、念のため説明しておきましょう。「5W1H」とは、Who、When、Where、What、Whyの5つのWとHowのHのことで、大抵の新聞記事はこの5W1Hで構成されています。 

 ○「雑報」記事には必須の要素

 例えば、6月28日付けの朝日新聞一面を開くと、「サッカーW杯最終予選 日本、豪と同組」の見出しの後に、「サッカーの10年ワールドカップ南アフリカ大会のアジア最終予選組み合わせ抽選会が27日、マレーシア・クアランプールであり、4大会連続4回目の出場を目指す日本は、オーストラリア、バーレーン、ウズベキスタン、カタールと同じA組に入った」の記事が載っています。

 このうち「抽選会」がWho、「27日」がWhen、「クアランプール」がWhere、「A組に入った」がWhatに相当します。

 ところで、よく注意なさると分かることですが、新聞社内で「雑報」と呼ばれる殆どのニュース記事は、Who、When、Where、Whatの順に並んでいるのです。ときにWhereの入らないこともありますが、Who、When、Whatは必ずこの順で入っています。

 しかし、新聞には必ずしも、その語順通りではない記事が載っています。紙幅が足りないので、具体的にはここで例を用いることはしませんが、企画記事と呼ばれる罫線で囲った記事がそうです。

 さらに、もっと語順がばらばらな記事があります。それが一面の一番下にあるコラムです。朝日なら「天声人語」、読売なら「編集手帳」、日経なら「春秋」です。ときには、主語を略してしまった結果、Whoのないときすらあります。

 ○コラムは「語尾」の使い回しに注目

 雑報とコラムのもうひとつの大きな違いは、語尾です。雑報の語尾は、先に挙げたワールドカップ抽選会の記事が、「同じA組に入った」とあるように「た」が圧倒的に多い。ときに「る」や「だ」、「う」が入ることもありますが、雑報とは「た記事」のことと考えていいのです。「た、た、た」とまるで機関銃で撃たれているようですが、仕方がない。簡単に語順を変えたり、別の語尾を使ったりしたら、記事を最初に読むデスクは書き直しを命じるか、ボツにするでしょう。

 しかし、コラムは違います。「る」「ある」「だ」「う」はもちろんのこと、「く」もあれば「ぐ」「ぶ」もある。ときには「か」まである。体言止めのこともある。語尾が実に多様なのです。

 コラムはその新聞社で文章がうまいと認められた記者しか書かせてもらえません。例えば昔、朝日新聞に深代淳郎さんという人がいました。この人とは実は筆者がロンドンに駐在していたとき、お付き合いをしたことがあります。いずれの機会にその思い出やコラムのことをお話することもあろうかと思いますが、彼の文章は実に語順と語尾が多様でした。

 何を言いたいかというと、文章のうまさとは、この5W1Hの語順と語尾をいろいろ使いまわすことができるということなのです。  これに語彙の豊富さ、その使い方の的確さを加えるなら、うまい文章のかなりの要素が入ってしまうことでしょう。

 ところが、この新聞第一面のコラムより、もっとすごいのが作家や優れたエッセイストの文章です。コラムはそうは言っても、ある範囲の中に収まるのですが、彼らの文章は、語順、語尾において実に多様で自由自在。それが書く人それぞれの持つ、一定の法則に収まれば、その人の文体ということになります。

 そういう視点で、一度、雑報、企画記事、コラムをごらんになってみませんか。記者たちの苦心や、コラムの上手下手が分かるというものです。「あらたにす」で各紙のコラムを並べて見て、その語順や語尾のバリエーションだけで点数を付けてみるのも、一興かもしれませんね。

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