2009年09月21日
| 安井 至 | (独)製品評価技術基盤機構理事長、東大名誉教授 | 経歴はこちら>> |
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民主党がマニフェストで掲げた、温暖化による気候変動防止に関する中期目標が多くの議論を呼んでいる。1990年比でマイナス25%という数値は、実のところ、その中身が詳細に示されている訳ではないので、具体的にどのような効果があり、どのような副作用を及ぼすのか、その実態を予想することは難しい。
確かに、国際的なリーダーシップを取るという観点からは、意欲的なものだと言える。しかし、このような単純な評価ができるほど問題は簡単ではない。21世紀全体を考える視点から、この提案が一体何を意味するのかを再確認しておく必要がある。
気候変動問題の本質を議論する前に、一つの歴史的な環境問題の解説を試みたい。それは、「アスベスト」である。
○現在と未来のトレードオフ
アスベストというと、なぜこのように危険な材料を使い続けたのか、という疑問を持たれる方も多いかもしれないが、1970年代の実態は、労働者の「将来の健康被害」と「現在の雇用」というトレードオフの問題であった。この時点でも、すでにアスベストが
健康被害を発生させるということ、すなわち、もしも多量のアスベストを吸入すれば、20年程度経過した後に、中皮腫と呼ばれるある種の肺がんを発生する可能性があるということは知られていた。
一方で、アスベストを補強用に使用したスレート板は、安価な建築材料として経済発展にとっては必須のものであった。もしもアスベストの使用を全面的に禁止すれば、アスベスト関連産業は消滅し、当然のことながら、従業員は失職する。
当時の日本人の平均余命は、現在ほど長くはなかった。男性だと70歳にもなっていなかった。定年も55歳が平均的なものだった。もしも40歳でアスベストを摂取した労働者が中皮腫を発症するとしても、平均的には60歳の頃である。40歳のいま失職すると、すぐに家族の生活が困るが、万一、60歳で中皮腫になったとして、どのような状況になるかは予測しにくい。治療法だってできているかもしれない。このように考えることも自然なことであった。
すなわち、現在と未来のトレードオフ。これが、1970年代のアスベスト問題の実態である。ただし、そのトレードオフは、アスベスト産業に従事している同一の個人の現在と未来に関わることであった。
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