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2008年10月28日

安井 至 (独)製品評価技術基盤機構理事長、東大名誉教授 経歴はこちら>>

選挙と新聞の役割

 先日までブラジルを訪問し、日本大使館・総領事館、JICAなどが主催する環境シンポジウムで講演などを行った。リオデジャネイロからアトランタに飛ぶ飛行機で、隣に座ったのがアメリカ人であった。23時過ぎ発の夜行便だったもので、ほんの少々会話をしただけだが、当然ながら、アメリカ大統領選挙が話題になった。

 はっきりそう言われた訳ではないが、どうも共和党支持者で、今回はオバマ優勢であることを気にしているような感じだった。

 ブラジルで何をしていたのか、ということから話が始まった。地球環境問題の解決にとって、最大の環境負荷を与えているアメリカの動向には常に関心を持っている。今回の大統領選挙の結果は、世界全体がどのような環境政策をとることになるのか、その重要な決定に対して重大な影響を与える、というようなことを話した。

 加えて、オバマとマケインの2名の環境対応政策を、リストにして比較するとかなり違うのだが、現実に何ができるのか、ということで考えると、世の中で言われているほどの大きな差があるとは思えない。ただ、懸念事項が副大統領候補ペイリンである。どうみても、キリスト教保守派的な考え方のようで、本音では、気候変動の人為的影響などを信じていないのではないかと推測される――こんな短い会話を行った。

 ブラジルから日本に帰国した前後から、米国の新聞が次々と大統領候補に対する支持を表明し始めた。これは大統領選挙については毎回のことではあるのだが、日本の新聞とは大きく異なる行動である。今回は、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ、シカゴ・トリビューンがいずれもオバマ支持を表明した。

 前回の大統領選では、ニューヨーク・タイムズもワシントン・ポストもゴア候補を支持したが、ロサンゼルス・タイムスが特定の候補を支持するのは1972年以来で、同紙が民主党候補を支持するのは初めてという。また、シカゴ・トリビューン紙が民主党候補を支持するのも初めてとのことである。どうやら米国の新聞は、是々非々主義で、大統領候補の支持を表明するようである。

 さて、振り返って日本の政治状況を見ると、解散もやるのか、やらないのかはっきりしない相当な閉塞状態である。このような閉塞状態を打ち破るには、メディアもこれまでとは違った政治的な対応を考える必要があるのではないだろうか。

 日本では、新聞などのメディアは政治的な中立性を保つことが求められている節がある。すなわち、積極的にある政党を支持することは、中立性を失う行為だとみなされているようにも思える。しかし、これも今や日本の閉塞状態の一つなのではないか。

○まず個別「政策」への支持・不支持を鮮明に

 新聞の役割として、まず、積極的に支持できる政策とはどのようなものか、支持できない政策とはどのようなものなのかを、より明確に示す必要はある。それには、新聞が、日本という国をどのような国に変えることが理想的だと思っているのか、そんな根本的な議論を紙面で行うことが必要不可欠である。

 こんなことを言うのも、現在の政治はどの党とも、増税しない、あるいは、ガソリン代値下げといったポピュリズムと利益誘導を武器にしてでも政権を維持あるいは獲得することに最大の目的を置いて行われているようにも見えるからである。このような動きを容認してしまっては、日本の未来は無い、と思うのである。

 メディアにとって、行政の批判をすることばかりが政治的な役割ではない。「けしからん」という発言は、メディアのもつ多くの役割の一つに過ぎない。解散総選挙が近くなった現在、選挙民に何を判断基準として投票行動を決めてもらうことが望ましいのか、こんなポジティブな方向に議論を進めることがメディア最大の義務なのではないか。

 そのためにも、すべての新聞は、最終的に特定の政党の支持をすることの可能性を考慮しつつ、まずは、それぞれの政党の示す政策・公約の各項目について、支持・不支持、あるいは採点を、その理由とともに明らかにすべきなのではないだろか。

  →あす(29日)の新聞案内人は野村彰男さんです。

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