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2008年07月28日

安井 至 (独)製品評価技術基盤機構理事長、東大名誉教授 経歴はこちら>>

IPCCは温暖化を断言したのか

 7月20日の日経新聞「中外時評」に同紙論説委員が書いた「反論まで周回遅れ 温暖化巡る日本社会の不思議」が、話題を呼んでいるようだ。その論点が「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は温暖化を断言した」か、「科学的に決着した地球温暖化」なのかである。

 記事は、「科学的に決着している地球の温暖化について、ここにきて温暖化と二酸化炭素の排出は無関係といった異論・反論が一部雑誌メディアなどを騒がせている」、という文章で始まる。そして「IPCCは、昨年の第4次報告書で人為的温暖化の進行を『断言』した」、としている。

○「二酸化炭素と温暖化は無関係」は間違い

 この記事の中で指摘されているように、一部の人が主張する「二酸化炭素などの温室効果ガスを排出することは温暖化と関係は無い」、という見解が間違いであることは、IPCCによって「断言」されていると考えてもよい。何をIPCCの原文とするか、によって違った解釈をしているブログも存在するが、IPCCのワーキンググループ1によるSPM(Summary for Policymakers)の脚注7にある「非常に高い確信をもって(90%以上の確信度で)」という表現を採用すれば、断言とほぼ同義なのではないだろうか。

 このところ温暖化懐疑本が次々と発刊されたことも事実である。論調は著者によって様々で、確かに「二酸化炭素などの排出は温暖化と無関係である」という主張もある。IPCCならずとも、これは間違いだと断言できる。そもそも「温室効果ガスなのだから、それを排出すれば温室効果が起きるのが当然」だからである。

 しかし、「中外時評」の書き出しの文章である「科学的に決着した温暖化」という表現は、単独で読む限り、誤解を招くおそれがある。上述の表現をほんの少々変えて、「温室効果ガスなのだから、それを排出すれば『地球は温暖化』する」と書いた途端に、これは科学的事実ではない。

○温室効果ガス「のみ」が温暖化ではない

 それは、「地球の温度変化=人為的な温室効果ガスの排出による温度変化+地球の揺らぎによる温度変化」だからである。そして、地球の揺らぎはかなり大きいのである。

 もう一つ、一般社会も理解すべきことがある。温室効果ガスの排出によって温度が上昇しても、その温暖化を加速したり、あるいは逆に抑えるような効果が地球の気象システムには組み込まれている、ということである。

 その多くは水(氷、雪を含む)の存在に理由がある。水蒸気の温暖化効果は非常に大きく、90%にも到達すると主張する人もいる。また水が関与する気象現象は多い。そのひとつ、雲の気象への影響は複雑で、地表に近い雲と成層圏に近いところの雲とでは、効果が違うとされている。しかし、簡単に考えてみても、雲ができれば太陽光を反射して地表の温度上昇を防止しそうである。そして、温暖化が起きれば、海面などからの水の蒸発は増えるが、これは雲が増える方向の変化である。

 繰り返すが、化石燃料の使用などによって温室効果ガスを排出すれば、地球の温度が高くなる方向に影響を与える。このことまでは科学的事実で「断言」しても良いことである。しかし、どのぐらい上昇するのか、と問われれば、まだまだ不確実性が大きいと答えるしかないだろう。

 事実、IPCCのワーキンググループ3の報告書によれば、温室効果ガスの大気中の濃度が2倍になったとき、温度が何℃上昇するかを示す指標である「気候感度」に関して、2℃から4.5℃の範囲であり、3℃がもっとも可能性が高いという表現になっている。気候感度がもしも2℃であれば、排出対策はかなり楽になる。4.5℃であったとすると、とんでもない対策の強化が求められるだろう。

 最近になって、気候感度はもっと低いのではないか、という論文も出始めている。大気中の温室効果ガスの濃度の推移や、各地の温度変化などのデータが整備され始めたからである。言いかえれば、それなりの研究投資が行われた成果が出始めているのである。したがって、科学的事実としてのIPCCの記述は、近い将来、訂正される可能性がある。それが科学的に正しい態度である。

 しかし、国際政治はそうは行かない。国際政治の取り得る立場は、現時点での最良の知識を基礎とせざるを得ないので、次のようなものにならざるを得ない。すなわち、「多くの科学的な検討をもとに導かれたIPCCの気候感度の中心値である3℃という値を前提として、向こうしばらくの間、国際的な対策を考える」、しかないのである。

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