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2008年06月16日

安井 至 (独)製品評価技術基盤機構理事長、東大名誉教授 経歴はこちら>>

「温暖化対策福田ビジョン」をどう読むか

 公開された福田ビジョンは、現在の日本の状況から判断すれば、~すなわち鉄鋼業界などからの反対が依然として非常に強い状況を考慮し、政治的にも極めて難しい状況にあることを勘案すれば~、と言いかえることができるが、首相によるビジョンとすれば、非常に妥当なものだと言えるだろう。

 ○NGOは批判的だったが…

 ところが、世界のNGOなどからの批判は痛烈であった。

 「ドイツ・ボンで開催中の国連気候変動枠組み条約の第2回作業部会に集まった世界の非政府組織(NGO)から同日、厳しい批判が相次ぎ、後ろ向きの国に与えられる化石賞の2位に選ばれた。ちなみに、1位はカナダであった」

 2020年までのいわゆる中期目標について、05年比で14%の削減が可能だとの試算を盛り込んだことに関連し、鴨下一郎環境相は10日の記者会見で「これが中期目標そのものではないと解釈している」と述べたようで、内閣の中でも、まだまだ環境省と経産省の争いが続いていることを暗に示している。

 さて、各紙社説はどのように論評したのだろうか。筆者には、次のように読めた。2050年の60~80%削減については、3紙とも特に批判なし。2020年の05年比14%削減が可能という表明については、2:1で批判派が多数であった。

 実際、どのような態度が正しいのだろうか。NGO的なスタンスで言えば、05年比で14%削減可能は、経産省のセクター別アプローチによる値そのものであって、当然、かなり「怪しからん」「後ろ向きだ」ということになるだろう。しかし、日本の首相がこの段階で述べる内容としては、本人がどのような政党に属していようと、「この程度のあまり良く分からない意見の表明が正しい」、と断言できる。

 ○“ポスト京都”で国益が衝突

 確かに、ポスト京都の枠組みをどのように決めるか、これは最も重要な環境問題への対応であり、地球上の人類にとって極めて重大な決断ではあるのだが、それ以前に、国益と国益とが真正面から衝突する国際交渉そのものなのである。

 さらに、洞爺湖サミットという国際交渉の場を控えている。今回のサミットには、インド、中国など温暖化のカギを握る国も参加をすることもあり、手の内を事前に晒してしまうことことは余り賢い対応とは言えない。なぜならば、今回、日本の最大の役割は、インド、中国をなんらかの形で枠組みに取り込むことである。そのために、EUと同じ主張をしていては、恐らく成功しないだろう。やはり交渉を通して、なんらかの妥協の余地を残す必要がある。

 そんなことを考えながら色々と調べていたら、NHKの時事公論で、嶋津解説委員が次のような論説を行ったようである。(関連リンク参照)

 「中期目標は、実は一番難しいテーマです。ポスト京都の国際交渉の核心部分だからです。福田総理は、国別総量目標の数字自体は『来年末までのポスト京都の枠組み交渉の過程で表明することになる』と述べましたが、削減目標を設定するに当たっての、日本の考え方と試算の数値を示しました」

 加えて、全体の総括として、次のように述べたようだ。「ここで福田ビジョンを外交の文脈の中で考えて見たいと思います」。そして、1990年という基準年が、EUにとって有利な設定であったことなども説明されている。

 筆者が主張したいことをきっちりと説明している。いささか予想外のことで、驚いた次第である。

 ○排出権取引は核心ではない

 最後に、もう一つ。それは、排出権取引についてである。今回、すべての社説が排出権取引を取り上げている。しかし、温暖化問題を解決に向かわせる対応の核心は、排出権取引そのものではないことを再確認したい。現時点でも、自主行動計画を実施している鉄鋼、電力などが、排出権の購入を行っている。

 核心は、企業および国による温室効果ガス排出量に上限を設定すること、すなわち、Capを設定することにあるのであって、排出権取引は、その排出上限を守れない場合の緩和策の一つに過ぎない。したがって、議論は、誰に対してCapを設定すべきなのか、あるいは、すべきでないのか。もし設定するとしたら、どうすれば公平かつ有効に設定することができるか、に集中すべきだということである。この点に関して、メディアの議論があまり深まっていないことを懸念する次第である。

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