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2008年05月26日

安井 至 (独)製品評価技術基盤機構理事長、東大名誉教授 経歴はこちら>>

地震に人類はどう対処すべきか

 中国四川省で5月12日に発生した大地震であるが、被害の甚大さと、新たに分かった科学的な事実を知ると、人類というものの余りにも非力なこと、そして、人類として地震というものにどのように対処すべきか、という問題を根本的に考え直さざるを得ない。

 地震の直接の原因は、もちろん、断層が動くことである。活断層が危険であるとされ、阪神淡路大震災以来、日本でもその調査が進んでいる。しかし、5月23日の新聞報道によれば、四川大地震の原因となった断層は、活動した記録・形跡が歴史上無いという。すなわち、活断層ではなく、ここ数千年程度は活動していなかったのではないか、とのことである。

 四川大地震の関係する地殻変動は、もともとコンドワナ大陸の一部であったインド亜大陸が、ゴンドワナ大陸を離れ、9000万年前にはマダガスカル島を切り離して北上を続け、ユーラシア大陸にぶつかってインド半島となると同時に、地殻を褶曲(しゅうきょく)させてヒマラヤ山脈を作った。これが7000万年前であるが、インド半島は現在でも北上を続けているため、ヒマラヤの向こう側の中国奥地の地殻に歪(ひずみ)を与え続けている。甘粛省、四川省はこんな原因に基づく非常に大きな地震が起きるところである。

 断層活動の時間スケールは、短いもので数十年、長いものだと万年オーダーである。短い周期で起きる地震ですら対応が難しいのが現実で、1000年を超すような周期で活動するような断層には対処しようがない、として諦めることがこれまでの対応法であった。

 現在、日本で問題になっていることが、原子力発電所の耐震にかかわることである。刈羽原発が想定震度の5倍もの地震動に襲われたということで、今後、700億円を投入して補強をするとのことである。「地震と人類」という観点からみたとき、ベストの戦略はいったいどのようなものなのだろうか。

 環境問題の歴史に、それを解くカギがある。当初、公害の被害への対処に追われた。水俣病はその典型である。しかし、地球的な環境問題の代表である温暖化問題については、不確実性を考慮したリスク対応を考えるようになった。

 このリスク対応という発想を地震へと拡張するとどうなるか。活断層の特徴をリスク面から表現すると、こんなことになるだろうか。地殻変動の歪が徐々に蓄積される。その段階ではリスクはほぼゼロである。しかし、その歪がある限界を超すと、一気に解放され、そのとき放出されるエネルギーが地震になる。そして、再び、歪を蓄積する段階に戻る……。

 現時点、1000年周期で起きる事態に対応することは、地震が頻発する日本故に、そんな余裕が無い。しかし、考えてみると、唯一対応可能な方法がある。それは、いったん断層が動いたら、次に活動する時期は、その周期から大体予測が可能ということを利用することである。たとえば、中越沖地域の断層の活動はほぼ1000年周期ではないかと言われている。一方、原発の寿命は、長くても数十年である。となると、原発の設置場所としては、比較的大きな地震が起きてしまったところを選択するという方法があることになる。

 となると、まず行うべきことは、中越沖地震がどのような地殻変動の結果起きたかを検証し、地殻の歪エネルギーがすでに解放されているかどうか、すなわち、さらに大きな地震が来る可能性があるかどうかを推定することだろう。

 その結果によっては、700億円を無条件に刈羽原発に投入して補強するよりは、同じ東京電力の原発であれば、福島原発を補強した方がリスク削減には効果的であることになる。また、地殻のひずみが解放されつつある地点が、新潟から石川・福井方向に移動していると見るべきだとの結論になれば、若狭湾周辺の原発を補強することが最良のアプローチであることになるだろう。

 しかし、一般社会からの理解を得ることは困難だろう。リスクとは確率であり、確率を適正に理解し活用することは、どうも日本人のメンタリティーに合わないようで、どうしても完全なるリスクゼロを目指しがちである。

 原発に対する見方や対応は様々である。もっとも重要なことの一つは、その地域の理解を得ることである。したがって、現実的な対応が必要であることに異議は無いのであるが、災害や環境以外でも、より戦略的なリスク対応を考えるべき時代になりつつあるように思える。

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