2008年05月05日
| 安井 至 | (独)製品評価技術基盤機構理事長、東大名誉教授 | 経歴はこちら>> |
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この4月の最大の話題、高齢者医療制度だが、4月9日から17日の間に、各紙が社説で取り上げている。筆者自身、全く無知だったので、どのような経緯があったのか調査をしてみた。
まず分かったことは、根拠となっている法律は老人保健法であるということだった。その大改正が、名称変更を含めて平成18年6月21日に行われた。実に、ほぼ2年前である。周知徹底など準備に時間がかかることが予測されただろうからまあ当然である。
当時、第3次小泉内閣の末期であった。前年9月の衆議院選挙で自民党は296議席を獲得し、議席占有率は61.7%にもなっていた。記録によれば、野党の大反対を押し切って与党の賛成多数で可決されている。その後、昨年夏の参議院選挙での民主党の大勝利のために、政治家の考え方が揺れ動き、何を理念とするか、といった議論なしに選挙対策的な意図から制度がいじられてしまった。そのため、ますます分かりにくい状況を生んだのではないか。
この法律を実施するには、条例の整備が必要であった。ところが奇妙な状況が起きた。国会で大反対した民主党が、自治体の議会においては賛成に回っている。その理由については、民主党厚木市議会議員・佐藤知一氏のブログに見られるように、自治体レベルでこの制度が成立しないと、より大きな混乱が予想されたから、ということのようである。これが状況をさらに分かりにくくしたようだ。
行政は責任を十分に果たしたのか。この制度では都道府県レベルで広域連合を作って対処をすることが求められており、厚労省は法律・政令を作ってしまえばそれで国の役割は終わり、というお役所仕事だったことも充分あり得る。
住民に直接情報を流す責任がある市区町村はどうなのか。それぞれ条例の整備などの対応をしたはずだから、十分に理解はしていただろう。しかし混乱が起きるかどうか、そんな発想をもった職員がどのぐらいいたか、それは大きな疑問である。
もうひとつの当事者である医師側はどうか。たまたま見つけたのが大阪府保険医協会だが、平成19年6月にかなりわかりやすいパンフレットを作って100円で販売していたようである。しかし、インターネットで見ることができるのは、今でも目次までで、本文を見ることはできない。医師側も、本当に情報を伝えようとしたのだろうか。
一方、報道機関はこの問題をどのように取り扱ったのか。まず新聞はどうだろう。インターネットで得た記事の状況から判断すると、新聞は、新しい制度の報道をまずまずの頻度で行っていた。しかし、多くの場合、この制度を前向きに捉えていたようである。
結局、今回の混乱は、制度の分かりにくさとお役所仕事による情報伝達が不適切だったところに、責任があるように思える。しかし、それだけだったのだろうか。高齢者の一人一人に十分な情報を伝達するために、何をやるべきだったのだろうか。たとえば、筆者の居住地である目黒区では、75歳以上の高齢者が2万4000人で、全人口の約1割である。どうやってその全員に理解してもらうのか。これは極めて困難である。
いささか性急な結論だが、今回、テレビがもっと情報を流すべきだったのではないだろうか。NHKがどのような対応をしたかを調べてみると、実施直前の3月21日に時事公論で解説されている。それ以前にも昨年2回、この話題が取り上げられている。しかし、十分ではなかったのは明らかである。
民放はどうなのか。今回の件で政府に批判的な某民放のWebサイトを検索してみると、3月31日に、放送とは無関係と思われる資料がアップされているが、ニュースとして取り上げられているのは、混乱を報道する4月1日以降のものだけである。これで民放は自らの責任を果たしたと言えるのだろうか。
それにひきかえ、2011年からアナログ地上波が止まることに関しては、4月26日の朝日新聞に詳しく取り上げられているように、テレビ画面にテロップを流し積極的に情報伝達を行う方針のようだ。これは余りにもテレビの身勝手なのではないだろうか。
民放と言えば、確かにスポンサーに依存して番組の制作・放映を行っている。そのためか、電波という公共の資産を使っていることに対する自発的な使命感が十分ではないのではないだろうか。市民はもちろん、新聞など他のメディアも、テレビによる公共への自主的な貢献をもっと求めるべく声を上げるべきだろう。