2010年08月17日
| 伊藤 元重 | 東京大学大学院経済学研究科教授 | 経歴はこちら>> |
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為替レートが円高に動いている。円ドルレートが80円台半ばまで動くことで、産業界も政府関係者も危機感を持ち始めたようだ。1995年に日本が経験した過去最高の円高の水準に近づいてきたからだ。
冷静になって考えてみれば、円ドルレートでみて、それほど極端な円高ではない。1995年から現在までに、日本の消費者物価はほとんど変化していないが、米国のそれは約40%上昇している。実質レートで見れば、円ドルレートは過去のピークに比べてまだ40%以上円安ということになる。かりに物価も考慮に入れた実質為替レートで、1995年に経験した過去最高の円高を経験するとすれば、それは今の物価水準であると、1ドル=約57円という計算となる。
理論は理論、現実は現実である。産業界や市場関係者は名目レートを見て行動している。行動経済学(心理経済学)によれば、人々は過去に経験した水準を前提に考えるようだ。だから、当面の円高の壁は80円ぐらいのところにあり、その壁を越えるかどうかが大きな注目点である。80円の壁を越えると、その後も相当の円高に動いてしまう可能性もある。だから80円の水準に近づくほど、政府や日本銀行に対して、円高阻止の対策を打つべく圧力が強まってくるだろう。
○介入政策の効果
さて、円高を抑える政策手段はあるのだろうか。首相や財務大臣が円高警戒の発言をすることは市場に一時的な効果は与えるだろう。ただ、政府関係者の口先介入だけで為替レートが大きく動くとも考えにくい。G8とかG20の場で行き過ぎた円高を問題にしてもらうということも考えられるが、円レート問題で主要国の間で何らかの合意が得られるとも思われない。
結局、日本政府なり日本銀行なりが、独自に円高阻止の政策を行えるかどうかが注目されることになる。そこで考えられるのが、大胆な介入政策である。円高阻止であるので、政府が大量のドルやユーロなどを市場で購入するという介入を行うのである。介入は為替市場に一定のシグナルを送ることになるので、円高を抑えるのにある程度は効果があるとも考えられる。ただ、経済学的に考えてみれば、政府がいくら介入をしても、それが不胎化されていれば、あまり大きな効果は見込めないだろう。
→次ページに続く(不胎化された介入とは…)