「こうのとり」無人でも大きな一歩

 「こうのとり」に宇宙飛行士は乗っていません。それでも人類にとって「大きな一歩」となりうる、重要な使命を帯びています。

 9日の午後10時26分、無人輸送機「こうのとり」を乗せた国産大型ロケット「H2B」が打ち上げられました。H2Bの打ち上げは、2009年の初飛行から6連続で成功しています。輸送機の名前のとおり、主な目的は国際宇宙ステーション(ISS)への物資の運搬です。それに加えて今回の打ち上げでは、物資を運び終えた後に「宇宙ごみ」の除去実験が予定されています。

 この「宇宙ごみ」の大掃除は、今後の宇宙開発にとても大きな意味を持っています。現状、使われなくなった衛星や切り離したロケットが、弾丸よりも速い速度で宇宙空間を飛び回っています。もし衝突すれば大きな被害が予想されるだけでなく、破片が新しい「宇宙ごみ」になります。中にはほとんど永久に落ちてこないものもあり、いかに数を減らすかが、今後の宇宙開発の大きな課題になっています。

 「こうのとり」の実験はその先駆けです。「宇宙ごみ」に電気の流れる長いひも「テザー」を取り付けて、地球に引き寄せて燃やすことを狙います。この方法なら燃料を使わずに「宇宙ごみ」を減らすことができます。今回の実験では、「テザー」を取り付けた装置を飛ばして、動きを記録します。

 宇宙産業への注目がより広がっていることを感じます。2017年度に要求された宇宙航空予算は190億円増の1731億円でした。内訳には今回打ち上げられた「こうのとり」「H2B」の後継機の開発費も含まれています。今朝のNHKの番組でも、宇宙産業への民間の参入がテーマのひとつになっていました。

 宇宙で事故が起きたときには、国際法の一種である宇宙法の解釈が大きな問題になってきます。宇宙といえば科学者をイメージしがちですが、法律家や経営者・投資家も大いに必要とされる時代になっています。多くの人が参加する領域は着実に広がっているのです。

 有人宇宙飛行と比べれば、ニュースの扱いは小さいものです。それでも、「宇宙ごみ」の実験が成功すれば、宇宙空間でのリスクを減らすめどが立ちます。実験をきっかけにして、これまで以上に多くの人々が宇宙産業への参入を考えるかもしれません。そんな思いを抱きながら、成果を心待ちにしています。

参考記事:
12月10日付 日本経済新聞朝刊39面『「こうのとり」打ち上げ ISSに14日ドッキング』
12月5日付 日本経済新聞朝刊13面『JAXA、「宇宙ごみ」除去実験、世界に先駆け。』
9月13日付 日経産業新聞9面『科学技術予算概算要求のポイント(1)文科省――2年連続1兆円超え、官民共同AI開発に重点。』